へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

赤城と加賀・One Day

赤城と加賀・One Day 本文

………。
……ふ……。………。
加賀? ……加賀?
………。
加賀……!
………。
返事をしてちょうだい……加賀!
すみません。少し席を外していました。
ああ、そこにいたのね。加賀。
はい。お休みになっていたので、 声をかけませんでした。
何をしていたの?
窓を……風が冷たくなってきたので。
こちらに……。
はい。
……ああ、こんなに冷たくなって。
ほら、頬が氷のよう。
大げさです。
確かに、日が陰ってきて急に冷え込み始めましたが、そこまで寒くはありません。
暦の上では冬になったのですもの。
ええ。でもまだ日中は、日が照っていたらあたたかいです。
ここは冬でもそんなに寒くならないところですし。
本島のほうでは、本土からきた人間たちは皆夏のような格好をしているのだとか。
話にしか聞いたことはありませんが、本当でしょうか?
どうでしょう。私も見たことはありませんし。
……そのお話はどちらからお聞きになったのですか?
……さぁ……? 誰からだったかしら。
………。
………。
……ああ、そう。思い出したわ。
“あの方”から聞いたの。そういえば提督もご一緒で。
お二人ともときどき本当なのか嘘なのか、冗談なのかわからないことを言うものだから、
あのときも、一緒にいたほとんどの娘《こ》が嘘だと思っていたのよ。
そうですか。
どのみち、私たちはたとえ本島や本土に行ったとしても、“外”には出られませんから。
そうね……あ、でもね、“おかあさま”がね、そのあとでおっしゃったの。
「少し大げさだけど、本当のお話ですよ」って。
……人間は私たちに比べて、暑さ寒さの耐性が低いものとばかり思っていましたが。
そうねぇ。
私たちには『罐《カン》』がありますから。
今では半速ほども出さないけれどね。
……と言いつつ、『速度いっぱい』なんて、出したことないのよ、ふふ……。
私もです。公試の際に出したくらいです。
“あの方”は、慎重な方でしたし、ここは概ね平和なところでした。
……加賀。
はい。
提督が「良い」とおっしゃったら、私を乗せて走ってくれる?
………。
そうしたら、きっと風を感じることができるわ。
あなたから飛び立つあの子たちの音を聞きたいの。
……はい。
私からも提督にお願いしてみましょう。
ええ、お願いね、加賀。
ああ、楽しみだわ。
………。
少し、冷えてきましたね。
お茶を持って参ります。
あら、気を遣わないで。
今は乾いていないわ。
いえ、私が飲みたいのです。
良かったら、お付き合いをして頂けませんか。
そういうことなら喜んで。
昨日、間宮さんが寄港したので、美味しいお饅頭を分けて頂いたのです。
それをお茶請けにしましょう。少しお待ちください。もって参ります。
はい。ではもう少しここでひなたぼっこをしています。
窓を閉めていますので、暑いようでしたら部屋の中に入っててください。
障子越しのほうが、日差しはいくらか柔らかいと思います。
はい。
動くときは、段差に気をつけてくださいね。
また転んで痣を作られたら、いくら私でも、寿命がいくつあっても足りません。
はい。
転ばないように、こう……にじり寄ってお部屋に入ります。
はい。では、行って参ります。
はい。
………。
………。
(……提督は……提督はもう、ここにはいらっしゃらないのよ……)
……っっ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……とても美味しかったです。
さすが間宮さん謹製ですね、気分が高揚します。
おまんじゅうだけではなくて、お茶もとても美味しかったわよ。
………。
ありがとうございます。
山芋の香りがほんのりとしました。皮の色は白ですか?
いえ。赤城さんがお召し上がりになったのは、赤です。
ほんのりとした桜色です。
私が頂いたのは白です。
紅白のおまんじゅうだったのね。
なんだかお目出度い……あ……。
……そう、そうだったの。
………。
“あの方”の……そう。
……よく、ご存じで。
ええ、毎朝目が醒めたら数えているの。
日向が手慰みに作った玩具、憶えているかしら?
はい。小さな子たちが遊びながら算術を覚えるようにと作った、算盤のような玩具ですね。
ええ。あれがね、とても役に立つのよ。
誰だったかしら、あの玩具を取り合って、癇癪を起こして投げた子がいたの。
地面に落ちて、運が悪くて大きな石があって、腕の一本が曲がっちゃって。
日向は怒らずに直してくれたけれど、折れたところはわずかに曲がったままなの。
曲がった腕側をこう……自分のほうに向けてね、向こう側の三本が日付でこっちが月。
折れた腕の駒が曜日なの。折れているから七つしか動かないのよ。
なるほど。どおりで。
え?
金曜日は、朝からソワソワしていらっしゃいます。
だって、カレーの日……ですもの。
加賀の作るカレーは、バリエーションに富んでいるから好きよ。
ありがとうございまず。
……ところで、先ほどの話なのですが。
はい?
提督が良いと言ったら……という……
ええ。良い返事が頂けるといいわね。
それなのですが、提督の元に一緒に行きませんか?
……え?
でも……大丈夫かしら?
席を外した際に、僭越かと思いましたが、提督にお伺いを。
……どうだった?
久々に顔が見たいので、是非に……と。
そう……そうなのね。
良かった。
あなたの体調が良ければ、明日にでも、と。
ええ、大丈夫よ。行きましょう。
心が逸るでしょうが、落ち着いてください。
最近よく夜か朝に微熱を出していますし、なにより……ときどき苦しいのではないですか?
その……発作で。
………。
夜中に体が冷えていることがよくあります。
……ええ……時折、一部の罐《カン》が動いていないことがあって。
もちろん、日常では全部の罐を動かすことは少ないけれど……切り替えに失敗する時があるみたい。
……いやね、老朽化するというのは。
提督も、似たようなことを仰っていました。
曰く、時々胸が苦しくなるよ、と。
……そう……。
だから、今日は早めの夕食にして、ゆっくりしましょう。
明日も晴れるそうですから、早めに出てお昼を向こうでしましょう。
はい……加賀。
はい、なんでしょう。
あなたも早く寝るのよ。
私と一緒に。
………。
じゃないと、私も寝ません。
……それは困りました。
やらなければいけない仕事が残っているのです。
明日は出かける予定なので、明日というわけには参りません。
じゃ、明後日やればいいのよ?
………。
そんなに急がないといけない…ってワケではないのでしょう?
………。
私たちに急ぐ仕事はないはずだけど?
……しかし……。
……できるだけ、あなたと一緒にいたいの。
私に……いえ、私たちに、あとどれくらいの時間が残されているのか分からないから。
だから………。
わかりました。
今日は早めに休みます。
腕枕、してください。
……っ……。
ふふ……。
……赤城さん、あなたという方は……。
はい?
今、あなたの目が見えないことを、初めて良かったと思います。
……ひどいわね。
でも、私には見えていますよ。あなたは今、真っ赤になっているのでしょう?
………。
ほら、図星。
たとえ誰からも振り返られることのない老朽艦であっても、あなたはとてもかわいいわ。
赤城さん。その言葉、そっくりお返しいたします。
あなたこそ、いつになっても、私をうろたえさせるほど愛らしい方です。
そうですか。ところで加賀?
はい、なんでしょう赤城さん。
私、お腹が空きました。
………。
では、そろそろ支度に取りかかりましょう。
最近は便利になりました。
そうね。一食分ずづパックされているのでしょう?
ええ、献立もきちんと考えられています。
旬のものも使ってあって、嬉しいですね。
今日は何かと思うと、嬉しくなります。
そうですね、では、支度してきましょう。
そろそろ部屋に入ってください。
窓は閉めましたが、そこはどんどん寒くなります。
ええ。……手を、引いてくださる?
……はい。足下にお気をつけて。
転びそうになったら、受け止めてね。
……はい、努力します。
ふふ……。
拍手送信フォーム
Content design of reference source : PHP Labo