オリジナル格納庫

――ちゃん。

……。

……貴ちゃん。起きて。

……んー……。

貴子さん。

……あに？

『あに？』じゃありません。

……じゃ、姉？

……。

ごめんなさい。起きます。

……宜しい。

……。
……で？　『海棠の睡（ねむ）り未だ足らず』といった風情の――

あら、まだ酔ってるの？

……。
失言でした。

宜しい。

……で、用は何なの？　今日、休み？

ええそう。お休みなの。だからね、この部屋を片付けようと思って。

あ”？

余計なお世話なのは分かってるわよ。あなたが自分のものを他人（ひと）に触られるのがイヤだということもね。

だったら――

もう終わったんでしょ？　仕事。

……まぁね。

そして、自分が思ったようにはできなかった。

……。

自暴自棄になって、大酒にふけるのは感心しないわね。
すごい匂いよ、“あずまや（この家）”。

……。

そもそも、あまり強くないんだし。

それは否定しない。

丸二日も飲み続けるなんて。

……よくご存じで。

トラックから下ろすのを見ちゃったのよね、偶然。

あらま。……悪いことはできないわね。

台車、戻しておいたわ。

それはありがと。

普通のヤツならバレないかも知れないけど、箱形はね。
毎日使うものだしね。
……で、どれくらいがお酒だったの？　半分？

まぁそんなトコ。

……てことは、三分の二かしら？

やなぎはらさんには敵いません。
……て、寒いんだけど？

空気が淀んでるわ。ここの匂いだけでいろいろ酔いそうだもの。

なんとしてでも掃除するんだ？

私じゃなくて、あなたがね。私は手伝うだけ。
服も着替えて頂戴。

どーせ今から汚れるんだし。

自分がどれだけ臭くなってるか、解ってる？

ゼンゼン。……そんなに臭う？

ええ、ものすごいわよ。
絵の具と、溶剤と、お酒の匂いで。

あー……それは失礼しました。

お風呂、湧かしてあるし、着替えも置いてるから。

もったいないから後でいいよ。
……仕事道具は自分で片付けるから、食い散らかしたモノとか……

はいはい。
……。

……。

……貴ちゃん。

はい、なんざんしょー？

食べたあと、せめて食器は漬けておいて。

食器ー？　ほとんど使ってないでしょーやー？

お醤油使った小皿のコトよ。

あー、そりゃすみません。今度から醤油もトレーに入れるよ。

……そういうことを言ってるんじゃなくて。

……じゃ、紙皿でー……。

……もう。

……。

……。

……。

……。

ほーい。だいたい片付けたー。

床、ちゃんと見たー？

見た見たー。

またいつぞやみたいに、油絵の具うっかり踏んで、足の裏が大騒ぎになりたくないわよー？

……ラグも外すして干すか。

そうして頂戴。
こっちもそろそろ片付くから。

へーい。
……えーっと……

掃除機なら、上がり口に持ってきてるわよ。

ありがとーござー。

（ぶぉ～～～～～ん、と掃除機の音）

……貴ちゃん。

……ん？　何か言った？

子供が生まれたら……

……。

……いえ、いいわ。これは私のエゴだもの。

……んー？

なんでもなーい。

んー……。

（キッチンにあるちっちゃい冷蔵庫の中を見て）……あら？

……。（掃除機をかけ続けている）

～♪

……。

～♪

こんなもんかなー？
……改めて見ると、これは酷い状態だなー。ゴミ袋、満杯すぎて溢れてるし。

そーよー。ヒトとしてそれはどうかと思うわ。

はいはい。今後気をつけますって。……あとはそっちが終わらないと、片付けらんない……て、なにしてんの？
……こっち手伝ってくれるんじゃ……なかっ……た……の？

はい。お疲れさま。

……。

どうしたの？　好きでしょ？

うん。……そーだけど。

冷蔵庫の中にあったのを使わせてもらったわよ。

……うん。

ご褒美と、おやつ。

……。

……。

……。

貴ちゃん？

……えっと。……風呂、入ってくる。

え？

せっかくの美味しいだろうおやつ、こんなくっさい体で、食べたくないから。

「だろう」ってなによ、「だろう」って。

うん。だから、このまんまじゃ、きっと美味しくないから。

……。

風呂に入ってる間、冷やしててよ。冷凍庫の中、氷、ブロックのが入ってるから。
風呂から上がって、縁側で食べよう。

あら、私もお相伴にあずかっていいの？

不幸は分け合うべきだよ。

なにそれ？

でも、幸せは共有するべきなんだ。

……。
屁理屈はいいから、お風呂入ってらっしゃい。

うん。行ってきます。

逆上せないのよ？

美味しいだろうものを目の前にして、そんなヘマはしませんから。

……冷ましておくわね。

うん。