オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 時間外

その理由。

その理由。 本文

時に、そんなことも。
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……ちゃん。
……。
貴ちゃん。
……。
……ふ……。
……大丈夫?。
ん……。
母屋(こっち)にいるなんて、珍しい。
……。
……。
月が……。
……ん……これ……?
風邪ひくわ。
ん。
……月が。
綺麗ね。
うん。
少し、熱がある?
大丈夫。このくらいだったら、平気。
……でも。
ん?
水が、飲みたい……かも。
……母屋の?
うん。冷蔵庫に入れてるヤツ、で、いい。。
汲みたてがいいんじゃないの?
……できたら、ね。
だったら。
でも、今は……汲みたてじゃない、ほう…がいいかも。
……いつも言うわよね。
そうやって汲みたてとか、そうじゃないのとか。
今は冷えてるほうがいいの?
うん。……それもあるけど。
汲みたてのは、なんだか、しょっぱい。
それが、美味いときと、そうでないとき……が、ね……。
気のせいよ。
あなた、いつもそう言うけど、私は感じたことないわ。一度も。
……でも……
しょっぱいのね。
うん。
持ってくるわ。
冷蔵庫の、なかのが、いい。
……。
……ねぇ、やなぎはら。
なあに?
少し、話、しょうよ。
……。
……。
……わかった。
ちょっと待ってて。冷蔵庫から持ってくる。
私も飲んでいいかしら?
(目でうなずいて)……もちろん。
自分で起きれるようなら、起きてて。
……ん。
無理しないのよ。
……ん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どうぞ?
……ん。
……頭。
ん。
ゆらゆらしてない?
目眩してる?
してない。大丈夫。
……そう。
……ぷは。……はぁ……。
人心地ついた?
……まぁ……ね。
そっち……。
ん。
……くっついて、いい?
……どうぞ?
ありがとう。
ん。
……うん。やっぱまだ熱いわね。
……。
計りに来たのなら……離れてよ。
あなたを支えに来たのよ。ぐらぐらしてるから。
……。
……寄りかかって、いい?
……どうぞ。
……。美味い。
そうね。……ところで。
……。
話って、なに?
んー?
話をしようって言ったのは、あなたよ?
そう……だっけ?
そうよ。
そっか。
忘れちゃったのなら、別にいいけど?
うん。
……(肩をすくめる)
……。
……。
……やなぎ、はら。
…はぁい?
どして、あすこにいたの?
はい?
大・学。
はい?
あんたが、あすこに、いた理由が、知りたい……かな。
あんただったら、あすこ、じゃなくても、良さ、そうじゃない。
あんな、三流の……
それを言うなら、あなたもどうしてあすこにいたのかしら?
それこそ、あなただったらもっといい美大なり芸大なりに行けたでしょうに。
……金、なかったしね……
……。
家から通える。できたら自転車で。
それだけ……だよー…。
……。
どんなトコだろうって、思ったから、行った。
ただ……そんだけ。
大学ってトコが、どんなトコ……で、自分にとって、どんな、こと……を、もたら、せて、くれるのか、それが、知りたか……った。
……大丈夫? 横になる?
……だい、じょぶ。
……。
やなぎはら……は?
……私はね。
どこでも良かったのよね。とにかく、家業にまったく関係ない方向に行きたかったの。
そして、教員免許が欲しかったのよね。
あー……取ってたねぇ、そういえば。教職――。
……実は、母はね。
んー。
地方紙とかに小さな挿絵を描く仕事をしていたのよ。結婚するまでは。
それは、はつみみ。
そうか。お母さん……なんだね。
そうかもしれないわね。
はがき大くらいの、小さな水彩画を描く人だったらしいわ。
見たこと。ないの?
母が絵を描いているところはね。作品は何十枚か持ってるけど。
へー……よかったら、こんど…みせてよ。
そうね。あちらの家に置いているから、今度戻ったときに、持ってくるわね。
うん……よろしくー。
でもあれかー。やっぱ、資格なんだねぇ。
……何故かね、子供の頃からの夢だったのよね。
んー?
教員免許。
ふ……ふふ……。らしい……ね。
小学校の先生になりたいって思ってたの。
それも、らしいな。
……いつくらい、から?
そうね、小学生の頃だったかしら?
すでに姉たちが、母と私を嫌っていることは理解していたから、もし家を出ていっても、ひとりでなんとか食べていけるように、手に職をつけたいと思っていたのかも。
……。
小学校の先生って、どの教科でも教えなきゃいけないでしょう?
……うん。
だから、たくさんの知識と技術が必要なんだろうって、思ったの。
それで資格なのか……。
ええ。そう。……たぶんね。
どうしてそんなことを思ったのか。
その早とちりとオッチョコチョイさが、やなぎはらといえばやなぎはららしいよね……。
やり遂げちゃうトコもね。
ふふふ、ありがと。
褒めてないよ。
褒め言葉と取っておくわ。
……なにそれ?
ふふふ……。
……月、きれいね。
うん。
……酒が、飲みたくなるな。
ダメよ。
うん。
……。
なに?
あんまり素直だから、どうしたのかしらって?
……ふん。
気弱になってる?
いや。
うそつきね。
……ふ、ん。
(ポケットをゴソゴソまさぐる)
……。
いい?
……どうぞ。
イヤといっても吸うクセに。
すみませんね。
慣れたわ。その匂い。
ちょっとお香っぽい。
……。
あなたの、匂いよね。
……。
好きよ。あなたの匂い。
(口だけで笑う)
……。
……(マッチを出す)
(マッチを取り上げて、シュッと火を点ける)
……(咥えたタバコに火を入れる)
……(自然に火が消えたマッチの燃えかすを、外の縁石の上に落とす)
(一口めをゆっくり深く吸い込んで、ゆるゆると口から煙を出す)
……あーぃらーヴゅー…。
……。
ええ、とってもきれい。
ふふふ……。
(灰を縁石の上に落として)…ちょっと、眠い、かもしれない。
いいわよ。このまま眠っても。
友ちゃんに部屋に連れて行ってもらうから。
兄貴ー?
無理させるのは、ちょっとなー…(口の端で笑いながら)
だったら、タカくんかトモくん、かな。
まーったく、だんだんと、可愛げが、なくなって、きたよね。
そう? 可愛いわよ?
……外見の、話。
そりゃ、男の子だものね。
顔が変わっ……ちゃったね。
なんとなく逆になったわよね。
その、意味がわか、らん。
父親と叔母さんじゃないの。
なんでアタシに、似るのか。意味が、わからん。
一緒に暮らしてると、似てくるものなのよ、きっと。
夫婦がそうだと言うじゃない。
ふん…。
……。
……。
……I love you…I love you………Love you…。
I need love you……。
……。
……。
ふ…ふふふ……。
ふふ…。
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