オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 時間外

大きく、おおきく

大きく、おおきく 本文

時間外 …さてこの猫どうしよう?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○岩下家母屋・縁側
春うららかな日。貴子が縁側でまーるくなって、何かを抱えている。
抱えた手元からは、じゅぱじゅぱという音。
そこへ、表の店から友則が昼食を取りにやってくる。
友則
貴子ー。

 

貴子
……取り込み中ー。

 

友則
(貴子の背中から肩越しに、手元を覗きこんで)……まだやってるのか。
もう生き物は飼わんぞ。

 

貴子
飼う飼わんはともかくとして、ウチにいる間に死なれちゃ後味悪いでしょ。

 

友則
さっさとどこか、里親を探してこい。これ以上いたら、情が湧く。

 

貴子
兄貴に?

 

友則
いーや、子供らにだ。

 

貴子
おー、腹がまっるまるになった。ティッシュ、ティッシュ。

 

友則
……お前、いつになく甲斐甲斐しいな。

 

貴子
赤んぼだからね。岳よりちいさい。

 

友則
ほう?

 

貴子
岳の時は、もちょっと大きかった。ヘソの緒はもう取れてたし。離乳もほとんど済んでた。

 

友則
こいつは?

 

貴子
生まれて2日くらいだったと思う。ブラザーズ、よく見つけたよ。
箱の中で死んだら、それこそ悲惨だもの。

 

友則
だからと言って、飼わんぞ。
そもそもウチは猫飼いの家じゃない。客商売もしてるしな。

 

貴子
昔の岳みたいに、看板猫にしちゃえばいいんだ。
ボックスや中のデカールを囓るネズミも出なくなったし、猫目当てに来る客もいたし、
なにより防犯にも役立ってた。一石三鳥でも四鳥でも、使いようによってはなる。

 

友則
岳(アレ)はまた特別なんだろ。……なんと言っても喋るしな。

 

貴子
………。

 

友則
なんだ?

 

貴子
憶えてたんだ。

 

友則
アレを忘れるなと言う方が、難しいぞ。

 

貴子
最後の五年くらいはぜんぜん喋らなかったから、兄貴はもう忘れてるかと思ってた。

 

友則
……忘れんよ。
………。
……生き物がいるのは構わん。しかしなぁ………。死んだときがな。

 

貴子
生まれいずるものに約束された唯一のものだからね。

 

友則
……そうだな。

 

貴子、足を使って器用に子猫をひっくり返して押さえる。
傍らに置いてある洗面器に用意した湯に、たたんだティッシュペーパーをわずかに濡らし、
子猫の尻を叩く。
貴子
悪いけど、勝手に飯食ってよ。

 

友則
……ん? あ、ああ……ぼちぼち子供らも帰ってくるかな?

 

貴子
来るんじゃない? いい時間だもの。……子供らが帰るまで待つ?

 

友則
んー……そ、そうだな……ぁ……

 

ただーいまー!!

 

声と共に玄関が元気よく開く。
戻ってきたのは春花。
春花
貴ちゃん、ただーいまー……おとうさんも、ただいまー。

 

友則
……俺の時は声が小さいのはどうしてかな?

 

貴子
びっくりしたんだよ、いるから。

 

友則
……(泣きそうな顔)

 

春花
……おとーさん、お願いがあるー。

 

友則
(元気になって)!……お、なんだ?

 

春花
ねこ、うちの子にしたい。

 

友則
………。

 

貴子
(くつくつと笑う)

 

春花
なんでよそやるの? 岳おじさんのいなくなって、ハルカ、さびしいから、ねこ、うちの子にする。

 

友則
………。いや……その………。

 

春花
なまえ、ねこの。かんがえたから。

 

友則
な、名前がないからとか、そんな理由じゃない……ぞ?

 

貴子
(肩を震わせている)

 

(Wでハモって)ただーいまー。

 

戻ってきたのは言わずとしれた、タカとトモ。
貴秋
(居間に入ってきて)ただーいまー、貴子叔母さ……

 

友秋
あれ?

 

貴秋
……おとーさん。

 

友則
……お前たち……なー……(盛大なため息)

 

貴子が心底可笑しそうに、上半身を折り曲げて、くつくつ笑う。
貴秋
……?? なんか、あったの?

 

友則
……いや、、なんでもない。

 

貴子
春花にも同じよーな反応されたから、お父さんはがっくりきてんの。
とーちゃんも今からゴハンだから、みんなで用意しなー。

 

貴秋
貴子叔母さんは?

 

貴子
アタシは、まだコイツの世話があるから、あとでいい。

 

春花
じゃ、あたしもあとにするー。

 

貴子
ダメだよ。ゴハンはみんなで食べる。……あんだすたん?

 

春花
(ぷー、とむくれる)

 

友則
貴子。

 

 友則  
貴子
はい?

 

友則
店はコジマ君たちがいるから、任せてていい。

 

貴子
………。

 

友則
だから、そいつの世話を早く終わらせろ。

 

貴子
………。

 

友則
みんなと一緒に飯を食うんだ、お前も。それがこの家のルールだろ?

 

春花
(顔がぱぁぁぁ…と明るくなる)

 

貴子
……(春花をちらりと見て、すぐに友則に視線を戻す)

 

友則
(にやっと笑って)あんだすたん?

 

貴子
(渋い顔で)……おーらい。

 

○岩下家母屋 居間
父と子供3人、そして叔母がやや遅めのお昼を食べおわろうかとしている頃。
子猫は貴子の傍らに置かれた箱の中で、健やかに眠っている。
おおむね全員が食べ終わろうとしている頃、貴秋が立ってお茶を全員分入れ始める。
友秋は各人の食器を盆に積み上げて、それをキッチンへと持っていく。
春花はそれについていき、ふたりで戻ってきた時には、ちゃっかりと食後のおやつを手に持っている。
貴秋
(お茶を友則、貴子、友秋、春花、自分…の順に置いて、それから所定の位置に座る)
お父さん、話があるんだけど。今いい?

 

友則
お茶を飲む時間くらいはあるぞ。

 

貴子
(ストレートに「いい」と言えばいいのに、と思いながらお茶を飲んでいる)

 

友秋
僕たちからのお願いお願いなんだけど。

 

友則
んー? なんだ?

 

タカ・トモ
猫飼ってもいい?

 

友則
(ぶーっっ!! とお茶を吹く)

 

貴子
……きれいにハモったねえ(呆れて笑う)

 

友則
貴子っっ!!!

 

貴子
アタシは手引きなんかこれっぽっちもしてないよ。

 

春花
おとーさん、ねこ、うちの子にしようよー。

 

友則
春花までっっ!! ダメだ!!

 

子供たち
なんでー!?

 

貴子
おーおー。これまった、きれいに……

 

友則
貴子っっ!!!

 

貴子
はいはい。茶化しません。……てかさ、なんで20年前と同じ話をしてるわけ?

 

友則
ああ?

 

子供たち
(えー? …という顔で大人ふたりを見る)

 

貴子
岳を保護した時も、同じ話題を1年くらいしたよねぇ?
兄貴、猫嫌いだっけ?

 

友則
嫌いじゃない。しかし、言ってるように、ウチは客商売をしてるからだな……

 

貴子
店に出さなきゃいいじゃない。岳は店にいたけど、コイツは表に出さなきゃいい。
なんなら、あずまやに置いときゃいいじゃない。

 

友則
……貴子。

 

貴子
なに?

 

友則
……お前、猫飼いたいのか?

 

貴子
飼いたいというより、飼う運命なんだよ、これは。
飼いなさいと、カミサマが言ってる。

 

友則
神も仏も信用してないお前が言うセリフか? 飼いたいなら飼いたいと言え!

 

貴子
飼いたいんじゃない。(機嫌が悪くなり始める)

 

友則
強情だな。

 

貴子
(いきなり噛みつくように)飼うんだ。

 

友則
……(毒気を抜かれた)

 

貴子
飼います。兄さんがなんと言おうと、この子はうちの子です!!(睨む)

 

子供たち、父と叔母のやりとりを、固唾をのんで見守っていたが、
貴子の宣言で「おおー!!」と感嘆の声を上げる。
貴子は箱ごと子猫を抱いて、ここから梃子でも動かないぞと、友則を威嚇する。
胡座をかき、左腕で箱を抱えて肩をいからせたそのポーズは、横綱土俵入りの雲竜型を思わせる。
春花が、揺れる貴子の右腕の袖を引っ張る。
貴子
(威嚇を止めて、春花の方を見る)……何? ハル。

 

春花
怒っちゃダメなの

 

貴子
……怒ってないよ。

 

春花
おとーさんに怒ってる。

 

貴子
……怒ってないけど……いや、すみません。

 

春花
怒ってない?

 

貴子
うん、怒ってない。

 

友則が呆れて、その様子を見ている。
友則
(ため息一つ)……できるだけ早く名前を決めろ。そしたら置いてやる。
その代わり、お前が責任持てよ。俺は知らん。

 

友則は半ば吐き捨てるように言うと、プイッと店の方に戻っていく。
タカとトモは一部始終を大人しく見ていて、さらに父親が去った店の方を、しばらく窺うように見る。
貴子は友則が去ったあと、体の力を抜いて、子猫の入った箱をそっと床に置くと、
何もなかったかのようにお茶を飲み始める。
友秋
やった。また猫飼えるんだ。

 

貴秋
……うん。
(貴子に)ありがとう、叔母さん。

 

貴子
別に。あんたたちが飼いたがってるから、飼うって言ったんじゃないよ。
真面目な話。コイツはうちの子になるべくして、やって来たんだと思うから、『飼う』って言っただけ。

 

友秋
春花に弟ができたなぁ(春花をぐりぐり撫でる)

 

貴子
……(「しまった、オトコ率がまた上がったな」と思ったが、それはおくびにも出さない)

 

春花
ねぇねぇ、名前、ハルカがきめていい?

 

貴子
んー(どうしようかな、という顔)

 

貴秋
決めちゃってるの?

 

貴子
(首を振って)候補があるだけ。

 

春花
こうほ?

 

貴子
「これにしようかな?」という意味だね。『候補』というのは。

 

春花
なににしたいの?

 

貴子
今言っちゃうと、それになっちゃいそうだから、どうしよっかな。
ハルもなんか考えてるんでしょ?

 

春花
ないよー。

 

貴子
はぁ?

 

春花
名前決めたって言ったら、おとーさん、「じゃねこかっていい」って言うかなっておもった。

 

貴子
……アンタは。
嘘はイカン、嘘は。

 

春花
……(しょげて)ごめんなさい。

 

貴子
しかし、駆け引きしようとするその度胸は買う。……すごいな、ハルは。

 

春花
(きょとんとしている)

 

貴秋
褒められたんだよ、叔母さんから。

 

春花
そうなの?

 

友秋
そうそう。……もっとわかりやすく言ってくれるといいのにねぇ(ちらりと貴子を見て笑う)

 

貴子
(やられた、と天を仰ぎ)……あんたたち……。

 

○岩下家母屋・居間 夜遅く
子供たちが就寝した時刻。居間には友則と秋子のみ。
秋子
(お茶を飲みながら)へぇ……そんなことがあったの。

 

友則
結局、勢いに負けてしまったよ。

 

秋子
友ちゃんは……

 

友則
ん?

 

秋子
なぜ猫を飼いたがらないんです? 猫だけじゃなくて、生き物全般嫌がるわよね?

 

友則
そりゃまぁ……ウチは客商売をしているから……

 

秋子
……じゃないわよね?

 

友則
……ん……うん。

 

秋子
嫌なら別にいいわよ?

 

友則
……いや。
端的に言えば、死ぬのが嫌かな。

 

秋子
………。

 

友則
貴子が来る前、犬を飼っていたんだ。防犯も兼ねて。

 

秋子
犬……。

 

友則
雑種の、しかし大きな犬でね。大好きだったんだ。……祖父(じい)さんの犬でさ。
かなり歳くってたのもあるけど、祖父さんが亡くなってからバタバタ弱って死んじゃってね。
まだ俺は4つくらいだったんだけど……。

 

秋子
辛かったのね?

 

友則
祖父さんが死んだことより、犬が死んだ方が、正直辛かった(頭をボリボリと掻く)

 

秋子
……わかるわ、その気持ち。

 

友則
ん?

 

秋子
順番は逆だけど、祖母より岳が死んだときの方が、辛かった。

 

友則
一緒に住んでいたからね。

 

秋子
それもそうだけど、岳の時のほうが、心構えがなかったのだと思う。

 

友則
……うん。

 

秋子
友ちゃ……あなた。

 

友則
(ちょっと吃驚して顔を上げる)……はい?

 

秋子
子猫……。

 

友則
もういいよ。貴子があれだけ強弁したんだ。貴子に任せるさ。

 

秋子
ええ……。でも、私からもお願いしたい。

 

友則

 

秋子
生きて欲しいの。

 

友則
………。

 

秋子
貴ちゃんには。

 

友則
……大丈夫だよ。

 

秋子
ええ。……でも、お祖母ちゃんが亡くなったときのこともあるし。
自分以外に対する責任があれば、迂闊なことは、あまりしなくなるんじゃないかしら?

 

友則
……そうであって、欲しいね。

 

秋子
生きようって思うことが大事だと、佐和子先生が言うの。

 

友則
……うん。経過は良くないのか?

 

秋子
まだ何とも言えないけど、決断が遅かったのは間違いないから、
あまり楽観視できる状態ではないらしいわ。

 

友則
……そう……か。
………。
ネコ……。

 

秋子
はい?

 

友則
名前、早く決めなきゃな。

 

秋子
(微笑んで)……そうですね。

 

○岩下家 翌日朝
全員が食卓についている。貴子の横には子猫の箱。
友則
……ところで、ネコだが。

 

子供たちの間の空気が緊張する。
友則
名前、決めたのか?

 

子供たちは全員同じように首を横に振る。
友則
そうか。
早く決めてやらんとな。

 

子供たち、「ほー」っと安堵のため息。
秋子はそれを見て、苦笑する。
貴子は平然とご飯を食べている。
春花
こうほはあるの。

 

友則
(箸を止めて)ほう? なんだね?

 

春花
(貴子の方を見る)

 

友則
あるのか? 貴子。

 

貴子
(ちらりと兄を見てる)……まぁね。でもみんなで決めた方が良いと思って、まだ言ってない。

 

友則
お前が面倒を見るネコなんだ。お前が決めろ。

 

貴子
あー? めんど――

 

秋子
(貴子に被せて)それを今言うのは、アンフェアよね?

 

貴子
………(秋子を苦々しく見る)

 

秋子
もったいぶらなくてもいいじゃないの。

 

貴子
………(視線が明後日の方へ)

 

秋子
言うのもベタな名前とか?

 

貴子
………。

 

友則
トラとかか?

 

 友則   トラとかか?
全員
……(「それはベタすぎる」と全員が思った)

 

友則
ん? 違うのか? 銀トラか? 白トラか?

 

全員
………(「なぜそこから離れない?」と思っている)

 

秋子
友ちゃんに任せちゃうと、それこそ本当にベタな名前になっちゃうわよー。

 

貴子
……否定しない。

 

友則
こらお前たち。……(子供たちに)お前たちはないのか?

 

友秋
トラかなーとか。

 

貴秋
白ちび……かなーとか。

 

秋子
タカくん、今はちっちゃいけど、すぐに大きくなるわよ。

 

貴秋
……だよね。

 

秋子
春花は?

 

春花
えーと、えーと……。
(うんうんとしばらく悩んだあげく)ねこ!

 

友則
………。

 

秋子
………。

 

貴子
………。

 

大人達は、口には出さなかったが、子供達のセンスのなさ過ぎを、心の中で一様に嘆いた。
友則
貴子。

 

貴子
………。
……『ホウ』……がいいかな、って。

 

友則
ほう?

 

秋子
………(夫がボケたのかそうでないのか判断が付かなかったので黙っている)

 

貴子
………(兄からボケられたと思って、眉間にしわが寄る)

 

友則
どんな字を書くんだ? 仮名じゃないだろ。

 

秋子
(どうやらボケたわけではなかったらしい、と判断して、そっと息を吐く)

 

貴子は左の人差し指で、ゆっくりと、しかし丁寧確実に、宙に字を書く。
貴子
『峰(ホウ)』……「みね」……という字を一字で。

 

秋子
ああ……『岳(ガク)』になぞらえているのね?

 

貴子
うん、そう。
(箱の中で寝ている子猫をそっと撫でる)あまりに小さくてさ。……だから。

 

友則
……でっかく育て……か。

 

貴子
(ゆっくり首肯する。うっすら微笑んでいる)

 

友則
(ちゃぶ台の上に何度か指で字を書いてみて)……うん。
いいんじゃないか? ネコらしくないところが、我が家らしくていいな。

 

子供たちの顔が明るくなる。
貴秋
飼っていいの?

 

友則
ああ。ただし、店には出すなよ?

 

友秋
やったー!! やっぱりネコがいなくちゃ、うちじゃないよ!!

 

春花
おとうとー。

 

秋子
(春花に)なあに? それ?

 

春花
ハルカのおとうとー。

 

貴子
(春花に)そだな。

 

秋子
岳のお皿出さなきゃ。

 

友則
……ああ、いや。買ってきなさい、新しいのを。

 

秋子
貴子
ええ?(貴子と同時に)
はい?(秋子と同時に)

 

友則
お古はいかん。お古は。

 

秋子と貴子、お互いに顔を見合わせて、ぷ、と吹き出す。
貴子
じゃ、今日にでも買いに行ってくる。

 

春花
ハルカも行くー。

 

貴子
はいはい。荷物持ってくれますか?

 

春花
うん。もつもつ、もちますー(元気に右手を挙げる)

 

秋子
ほらほら、春花もお兄ちゃん達も。そろそろ用意しないと、学校に遅刻するわよー?

 

タカ・トモ
ああー!! はーいはーい(どたばたと立ち上がって、自分の食器をキッチンへ)

 

春花
(立ち上がって)貴ちゃん、ハルカの学校おわるまで、まっててね?

 

貴子
(苦笑しながら)はいはい。待つ待つ。

 

秋子
こら春花、お片付けは?

 

春花
はーい(春花も自分の使った食器をキッチンへ)

 

秋子
置いておくだけで良いわよー。

 

秋子、キッチンに声をかけつつお茶を3つ入れて、各人の前に置く。
貴子
(お茶を飲みながら)……のんびりしてるけど、あんたも遅刻するわよ?

 

秋子
残念でした。今日はお休みなの。

 

友則・貴子
は?

 

秋子
体調が悪くて……(にこ、と笑う)

 

友則
………。

 

貴子
……そーゆーことね。

 

秋子
春花が帰ってきたら、三人でお買い物に行きましょうね?

 

貴子
(毒気を抜かれて、苦笑する)はいはい。

 

秋子
友ちゃん、今日のお昼、何が食べたいですか?

 

友則
……えっと……な、何が良いかな?(嬉しい)

 

貴子
今食ったばかりで、すぐには思いつかんでしょーよ、いくらなんでも。

 

秋子
(友則に)考えておいてくださいね?

 

友則
了解です(立ち上がる)

 

貴子
あんたはまだゆっくりしてていいでしょーが。

 

友則
……ああ、そうか……いや、新聞、新聞取ってくる。

 

秋子
……はい(ちゃぶ台の下から新聞を取り出して友則に)新・聞。

 

友則
あ……ああ、ありがとう。

 

箱の中の子猫は、これだけの大騒ぎにも関わらず、ぐっすり寝ている。
貴子
(眠るネコを見ながら)……大物になるねぇ、こいつは。

 

秋子
(子猫をのぞき込んで)名前負けしないかもしれないわねぇ?

 

貴子
やなぎはら、ちょっとあとで散歩に行こう。

 

秋子
……え?

 

貴子
桜……そろそろ散ってしまいそうだし。

 

秋子
(一度軽く目を見張って、それから細める)……そうね。

 

秋子と貴子、子猫を見ながらお茶を飲み、笑い合う。

桜の舞う春の朝……
拍手送信フォーム
Content design of reference source : PHP Labo