へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

『マリアさまがみてる』二次創作SS

鬱金香・7

鬱金香・7 エピローグ 本文

7.―エピローグ―

 そんなわけで。
 その年以来の恒例で、私は、今年もクリスマスまでの数日間を実家で過ごし、今自分のマンションへと帰宅している途中だ。助手席にはお土産という名の料理の差し入れと、あの時の鉢植えの何代目かの子孫にあたるチューリップ。その小さな花束がひとつ。 
 去年あたりから両親は、クリスマスごろに例のチューリップの一部を花咲かせることに精を出している。そのために専用の温室とか冷蔵ケースまで用意するという力の入れようだ。まったく、まめな性分の夫婦である。
 最近の母の口癖は、「花は良いわよー」だ。
 手をかけただけこちらに返してくれるから。……というのが理由らしい。それを聞いて私は苦笑するしかない。
 そして、その言葉を証拠づけるかのように、実家はさまざまな花たちで埋まりつつあった。
 私が実家を出たあと一年ほど経ってから、私の使っていた部屋はいつの間にやら母の園芸などの書籍に浸食されはじめ、今回の滞在では、とうとう私は客間で寝泊まりさせられた。
 だが、これで良いのだ。
 たぶん。これで。
 私はマンションの駐車場に愛車を入れ、自分の荷物と両親からもらったモノモノらを抱えて、足早に自宅へとむかう。玄関のドアを開けようとして、両手がふさがっているのに気が付いた。
 ああ、なんてもどかしいんだ、今日に限って。
 チャイムを鳴らそうと、無理な姿勢のまま肘を持ち上げたとき、向こうから静かに扉が、ほんの少しだけ開いた。
「おかえりなさい。聖」
 蓉子が出迎えてくれた。扉の向こうから花のような笑みがこぼれている。私は、蓉子が扉を開けやすいように、一歩下がった。
「ただいま」
「車が入ってくるのが見えたから。エレベーターホールまで迎えに行こうと思っていたのだけど、間に合わなかったわね」
 私の腕から料理の入った紙袋を取り上げながら、蓉子が笑った。
 蓉子とは大学の四回生の時から同居している。……一応「恋人同士」だから、『同棲』と言っていいのかもしれないけど、あくまでも『同居』だ。同居歴は二年半。
 今年の春、奇しくも同じ大学の大学院に進学したのをきっかけに、前住んでいたアパートをお互いに引き払って、大学に近くて部屋数も多いこのマンションに二人で引っ越してきた。寝室はひとつだけど、共同の本置き部屋にはソファベッドもあるし、ま、適当にお互い好き勝手して暮らしてる。それが長続きの元だから。
「父さんがさ、今年も、チューリップくれたんだ」
 室内に入りながら、私はチューリップの花束も蓉子に差し出した。
「そのようね。頂いたお料理、温め直すわ。着替えて手を洗ってらしゃいな」
 蓉子はチューリップを愛おしそうに受け取る。
 私は蓉子の言葉がおかしくて、おもわず吹き出してしまった。
「なによ?」
「なんでもない。着替えてくんね」
 私は自分の荷物だけを持って、私たちの寝室へ向かった。
 (お母さんと同じこと言うんだもんなー)
 着替えて手を洗い、さらにうがいもすませてキッチンへ入ると、いつものようにささやかなパーティーの用意がすっかり調っていた。スパークリングワインもほどよく冷えているようだ。
 ボトルを開けて、お互いのグラスに薄桃色の液体を注ぐ。料理たちの上空で、二つのグラスが小気味いい高い音を奏でた。
「ハッピーバースデイ。……1日遅れだけど」
「メリークリスマス。……こちらもね」
 料理が並ぶ食卓の真ん中には、実家からもらってきたチューリップが花瓶に生けられ、「あか・しろ・きいろ」とお行儀良く並んでいる。
 庭の花壇に地植えされた他の球根たちは、春に大輪の花を咲かせるために、今の寒さを耐えているんだろうか。そして両親はそんなチューリップたちに最大の愛情を注いで見守っていくのだろうか。
 蓉子と数日ぶりの食事と歓談をしながら、私は春になったらまた父と母が嬉しそうに、今度はこの倍以上のチューリップを花束にしている様子を想像して、心がほっこりとなるのを感じていた。
 ふと、なんの脈絡もなく『マリア様のこころ』が浮かんできた。そしてついうっかり鼻歌を歌ってしまった。蓉子が「食事中にお行儀が悪いわよ」と小言を言いながらも、途中から私につきあって一緒に歌ってくれた。
 ハレルヤ。
 一日過ぎてしまったけど、この聖なる夜に願わずにはいられない。
 この小さな幸せが、できるだけ長く続きますように。
 私は両親が育てて持たせてくれた3色のチューリップに目を細めた。
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