へっぽこ・ぽこぽこ書架

はわ……（大きな目をさらに見開いている）

はわわ……ど……どうし……

えっと……えと……し……司令官さん……に……（カタカタ震え始める）
ごっ……ごっ……

……ごめ……め……はわ……わ……わわ……

デンー？

デン？　……あれ？　どこかな。
デーン。

あ。いた。

……？　どしたの？

はわ……わ……

（電が真っ青になって動けなくなっているのに気がついて）……！
……ん？　どした？（ちょっと困った顔で微笑むが、その場からは動かない）

し……司令官……さん。

なのですよ。

ご……ごめんな、さい……なの……です（最後は消え入るように）

？？　どうしたの？（ゆっくり近づく）

その……（ぎこちなく首が動いて、木箱のほうを見る）

ん？　イモ箱？（近づいて開ける）……あ。

（下を向いてカタカタ震えながら）いなづま……お……おやさい、のかんりを……

（その様子を見て「ふ」と小さく息を吐いて）ジャガイモの芽が出ちゃったねぇ。

ご……ごめんなさ、い。

あー……まぁこれは仕方ないかなー。

………。

（電に近づいて、ひょい、と抱き上げる）

ひぁ……（硬直する）

（電をぎゅ、と抱いて、その耳元で）……大丈夫だよ。怒ってない。
むしろ私のほうが、君に謝らないと。

はわわ……（ぐらぐらしている）

危ないから、私をぎゅってしてくれるかな？

は……はい……なの、です（言われたとおりにする）

はい、上出来。

（にこ、と笑い）落ち着きましたか？

……なの、です。

なのですか。

あの……ごめんなさいなのです。

君が謝ることじゃないよ？

で……でも、貴重なたべものが、食べられなく……なったの、です。
変なものが、出て、いるの、です。

（芽が出たジャガイモの一つを手にとって）まぁ食べられないわけじゃないけど、
ここまで芽が出ちゃったら、美味しくはないかな。……ホラ、ふにゃふにゃになっちゃったし（ジャガイモをプニプニと握って電に差し出す）
触ってごらん。

（おそるおそるヒナセの手の中にあるジャガイモに触れる）
……ふらふわ、なのです。

中の栄養が、（芽を指さして）この芽に食べられちゃったからね。

（うつむく）

おイモたちはさ……あ、タマネギとかもそうなんだけどね、まだ生きてんの。 この子たちはね、土から出してこうやって箱に入れてても、死んでないんだよ。

……？

ジャガイモは、地下倉庫にまだたくさんかこってあるから、心配しないで。今日の分は、あっちから出してこよう。
……で、この子らは……んー……明日やりますか。
今日はもう遅いからね。

はわ……。

というワケで、このお話は明日しようね。
じゃ、あっちからジャガイモ出してきて、晩ゴハンの用意をしますか。
電、手伝ってくれますか？

は、はい…なのです。

よろしくお願いしますのです。

（ジャガイモを一つ手にとって）昨日ね、この子たちはまだ生きているんだよって話をしたよね。

（こくん、とうなずく）

だからね、土に埋めてやるんです。

はわ……。

こうやってね…… （ジャガイモをいくつかに切り分ける。一つのかけらに一つの芽…くらいの要領で）

（目を見開く）……切っちゃったの、です。

（うん、とうなずき）……で、こいつをさらにこうします（切り口に灰をちょん、と付ける）
さ、私が切るから、電はこうやって、灰を付けてくれますか？
付けたらこっち（空のテミに自分で灰を付けたジャガイモを入れ）に入れてね。

はい、なのです。

そうそう。これはね、手蓑《テミ》って言います。
地域によってはエビジョウゲとかって言ったりするかな。
私の父や伯父はエブって言ってたから、ずっとそうだと思ってました（あはは、と笑う）

テミ……えぶ？

まぁどっちでもいいよ。一般用語としてはテミだから、テミのほうがいいかもね。 私はついうっかりエブって言っちゃうかもしれないけど。
……まぁいいや、とりあえず急いでやろう。
今日の午前中のお仕事は、このジャガイモを植えることです。
（言うと、手慣れた手つきでジャガイモを切り分けて、電のそばに置く）

はいなのです（置かれたジャガイモの切り口に灰を付けていき、空手蓑の中に丁寧に並べていく）

いい手つきだねぇ（ニコニコと笑う）

あの……し、司令官、さん。

はいなんでしょう。

じゃがいもさん、土に埋めたら、どうなるの、ですか？

埋めたらねぇ……この芽がさらに大きくなって、土の外に出てきて、葉っぱが出てきてさらに大きくなって、そのうち花が咲いて、土の中にジャガイモができます。
この一片でたくさんのジャガイモができるから、収穫したらしばらくイモに不自由しなさそうだねぇ。

はわ……。

だからね、ジャガイモは芽が出ちゃったら、場合によってはこうやって植えてやればいいの。
こうやればね、次のジャガイモができるよ。無駄にならない。
いのちは続いていくんだよ。……もっとも、ダメな場合もあるけどね。　そこはさ、掛けみたいなものだから。

掛け……？？

あーわかんないか。
私の父がよく言ってた言葉がね『種まきと人生はロシアンルーレットだ』なんだけど、人生はともかく、植物を育てるってそうだなぁって思うね。
いろんな状況とか環境や天候で、たくさんできたりまったくできなかったり。
ホントにね、農業って面白いなっておもいます。

ろしあん……？？

ルーレットっていう賭け事の方法があるんだけど……賭け事っていうのは……
ホラ、こないだやったあみだくじみたいなヤツね。当たったり外れたり。

おもしろかったのです。

それは良かった。

でも、司令官さんより多くもらってしまったのです。

デンはくじ運がいいよねぇ。
まさか飴をあんなに当てちゃうなんて、思わなかった。

よ……よかったのですか？

もちろん。あれは全部、デンのものですよ。

だ……大事に食べるのです。

そうしてください。虫歯になってもここじゃすぐに治療できないから、食べたあとは、ちゃんと歯磨きもしてね。

はいなのです。

ロシアンルーレットってうのは、簡単に言うと、命がけの賭け事でね。
当たっても外れても大きい……って意味らしいよ。

？？？（首をかしげる）

ふふ……（ニコニコと上機嫌で作業をしている）

さて、これをこっちとこっちの畝に、植えていきますか。
だいたいこのくらいの間隔（約三十センチほど）を開けてね。
このくらいの深さで、こんな感じに芽を上にして、植えていきます。
……わかった？

わかりました、のです。

ＯＫ。じゃ、競争しようか？（にっこりと笑う）

はわ……。

君は初めてだから、ハンデ付けよう。
（右の畝の中央付近に行って線を引く）ここがお互いのスタートね。
……で、君は向こうに向かって植えて、私はこっちに向かって端まで行ったらこっちの畝にも植えます。ゴール地点は向こうね（電の進行方向を指す）
お互いに畝の向こう端にたどり着いたらゴール。
どっちが早いか競争。……どう？

はわ……。
わ……わかりましたの、です。

これが終わったら、ちょうどお昼を作る時間くらいになるかな。
じゃ、始めようか。

はいなのです。

じゃ、君はこっち側に来て。そう。
私はこっち側にポジション取ります。お互い右利き同士だから、ぶつからなくて済むよ。

（ヒナセに言われた通りの位置に付く）

（灰の付いたイモ2/3ほどを、今は空になっている手蓑に移して自分のほうに置き、1/3を電のほうに置く）こっち、君の分ね。足りなかったら悪いけど私のところまで取りに来てくれる？

はいなのです（柄に『まづない』と書いてある移植ごてを握っている）

お。やる気満々ですね。

なのです。 じゃがいもさん、たくさんになるなら、いなづまはがんばるのです。
司令官さんにはまけないのです。

（電の様子に心から満足しきった笑顔で）よし。じゃ……位置についてー……よーい……

（真剣な顔で合図を待つ）

スタート（ゆっくりとでも確実に土に移植ごてを入れる）

はいなのです。