へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

イセヒュー

イセヒュー 本文

○ヒナセ基地 入渠ドック(という名の掘っ立て小屋) 日向、伊勢。
……お、気がついたか。
………。
私が見えるか? 声はどうだ? 聞こえているか?
………。
……ふむ……見えては、いるようだが……。
(右手をかざして指を三本立てる)これは? 何本だ?
――日向!!!(がばっと飛び起きて、首に抱きつく)
無事だったんだ! 良かった!!!
うむ。 そのようだな。
……へ?
どうやら私は『日向』らしい。
で、自分の名前はわかるか?
え……と……い、伊勢。
伊勢型一番艦の、『伊勢』……だ、けど?
……(バインダーに止めてある書類を見ながら)ふむ。そうだ。
伊勢型一番艦『伊勢』間違っていないようだ(バインダーを閉じる)
そんなわけで、よろしくな『伊勢』(手を差し出す)
は……はぁ……(日向の手を取る)
ここは鹿屋基地の分基地の一つだ。
君は運がいいな(握手をする)
(握手したままで)ところで、具合の悪いとことはないか?
一応、『明石』が外皮《そとがわ》の修理はしてくれたが、気分が悪かったりしないか?
え……えーっと、その……取り立てて、今の……ところは……。
そうか? にしては言葉がたどたどしいな。
言語野の故障が考えられるか。明日行う予定の検査項目の中に入れておこう。
あ……あの……
なんだ?
あなた、『日向』……よね?
……そうらしい。
「らしい?」
うむ。「らしい」ということしか分からない。
は?
自分が伊勢型の二番艦ということまでは憶えているが、実際の名前が分からない。
ただ、資料を見れば『日向』だし、周りもみんな『日向』と呼ぶし、呼ばれれば「そうかな」くらいは思うから、たぶん『日向』なんだろう。
ど、どうしてそんな……ことに?
さぁな。直接の原因は知らんし分からん。
ここの変人司令官のおかげで資材にならずにすんだ。
………。
なんだ? しおらしくなったな。
ああ、腹が減っているのか? ちょっと待っててくれ。
昼の残りが少しくらいはあると思う(立ち上がって、部屋から出て行く)
………。
いや……そうじゃなくって……(呆然と見送る)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 司令官室 ヒナセ、伊勢
提督、あのー……。
なんだい? 伊勢。
そのー……ひとつ訊きたいんですけど。
私が答えられる範囲でなら。
えっと……その……。
ん? ああ……。
デン、鳳翔さん、ちょっと席を外してもらえます?
はい。
はいなのです。
(書類をそろえてデスクの上に置き)では、失礼します。
なのです。
ごめんねー(見送って)
……で、なに?
あの……日向のことなんですけど。
あ? ああ、ウチの日向?
はい。
変でしょ。ま、仕方がないんだけどね。
本人から聞いたんですけど、ドロップ艦じゃなくて、漂流中に助けてもらったとか。
うん、そう。
もしかして、その……元はどこの所属とかって、分かってます?
んにゃ。わかんない。
……てか、どうした? もしかして、知ってる子?
そのー……たぶん、なんですけど……
うん。
私の基地にいた日向かなって。
確信ある?
……その……
ん?
私たち、共鳴艦で……
ん?
たぶん、この感覚って。
んんん……。
でも、あっちはゼンゼン感じていないみたいで。
……なるほど。
でも、そうかもしれないねぇ。
……え?
ウチの『日向』、かなり変でしょ。
……あ、はい。
彼女ね、君が聞いたとおり、ドロップ艦じゃなくて漂流艦だったの。
見つけたのは、今出て行った鳳翔さん。
はぁ。
発見時の状態は、ほぼ機能停止状態。一度意識が戻ったらしいんだけど、すぐ休止《スリープ》に入ったと報告を受けてる。私が見たときは、鳳翔さんが自分の罐《かん》に彼女を接続して、機能が完全停止しないようにしてた。
………。
頭部損傷が酷くてさ、ちょっと大げさな表現だけど、頭半分なくなってたんだ。
だから、いろんなことを憶えていないんだよねぇ。
自分が『伊勢型二番艦』だとは認識しているんだけど、実際の名前が思い出せないらしい。
記憶が断片的で虫食い状態になっているようだ、というところまでは分かったけど、こういう症例を見るのは初めてでね。過去の記録をひっくり返しても出てこなかったから、とりあえず何か進展があるまでは……ってことで、私の専属艦という形にして、預かってるというわけだ。
で、でも、艦そのもののデータがありますよね?
根幹情報?
はい。それを解析したら、どこの所属かはわからなくても、シリアルナンバーは残ってるんじゃ。
(肩をすくめる)残念ながら。
……え?。
その程度には損傷していたということだよ。
本来なら資材にすべきところなんだろうけど、命が繋がったからね。
建造直後や完全に機能停止した、いわゆるイレモノ状態なら資材に返すことも考えられたろうけど、〝生きている〟と分かっていて資材にするのは、私にはできないよ。
………。
あんな状態になってもなおかろうじて生きてて、沈まずに漂流して、演習中のウチの子たちに発見された。……運がいいね。
だからね、ウチとしては幸運艦てことになってる。
………。
………。
まぁそうだねぇ……君ももう少し修復が必要だし、君の提督にも連絡をとらないといけないし。しばらく一緒にいるといい。
どのみち、日向がこの基地のいろんな管理をしているから、分からないことがあったら、いろいろ訊いてみるといいよ。ただし、無理に記憶を引き出そうとはしないでね。以前、それでどえらいことになったからさ。
どえらいこと?
まぁ……なんというか……ちょっと暴走しましてね。
力ずくで取り押さえて落ち着かせようと思っても、日向に勝てる物理的な力を持った子はいないし、ちょっと大変でした。時間がかかって(苦笑する)
……まぁ、暴走したらあたしが責任もって押さえますけど……
あ、それ止めて。
うっかりすると、基地が吹き飛んじゃう(笑う)
……わかりました(途方に暮れたように)
お時間頂いて、ありがとうございます(一礼して出て行こうとする)
あ。ちょっと待って。
はい?
君のデータをさ、取らせてもらったの。
照会しないといけないから。
ああ、はいはい。
……さっきの話。
はい?
君と君の日向が共鳴艦ってヤツ。
はい。
いい機会だから、ちょっと調べてみるよ。
ちょうどいい具合に、近日明石と艦医が来るから。艦たちの定期検診にね。
あ……はい。ありがとうございます。
いい結果が出るといいけどね。
………。
ダメだったら勘弁して。
……はい。
……あ。
ん?
さっきの日向の話。
んー?
暴走したって……
ああ。うん。
どうやって、取り押さえたんです?
あー……ははは……
??
丸二日ゴハン食べてなかったから、イノシシ罠にゴハンを入れまして。
檻罠なんだけどね、すんごい頑丈な。
はぁ?。
ダメ元でやってみたんだけども、なんとかなりました。
(力なく)ははは……えっと、イノシシ罠が基地に置いてあることがすごいと思います。
……はは……(盛大に苦笑する)
ときどき山から降りてくるんだよ。畑を荒らしに。
だからね。
なるほど……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 物見の丘。 日向、伊勢
伊勢。
ひゅ……日向……。
ここには慣れたか?
え……っと……まぁね。
駆逐艦たちがやたらと話しかけてくれるんだけど?。
もともと駆逐艦は人懐こいからな。ただ、ここの駆逐艦たちは特に人懐こいらしいが。
うん。こんなに大人気なのははじめてかなぁ。
……お前、あいつらに菓子など与えなかったろうな?
お菓子? 持ってないわよ。そもそも何一つ持ってない状態で救助されたし。
そうか。じゃ。明石のせいだな。
へ?
明石と間宮は人気者だ。菓子をくれるからな。
あー……。
キャラメルはダメだ。
そ…そーなの?
虫歯になるからな。
ちゃんと歯を磨かないと。
そう言っているのだが、おろそかにするヤツが多くてな。
明石が定期的に来るのは助かるが、ああもキャラメルをばらまくのは、駆逐艦たちを虫歯にして、自分の仕事を作っているようにしか見えない。
い、いやー……それはないんじゃないかなー。
……ときどき、チョコレートもばらまいている。
そーなんだ。
先日なんかは、私に瑞雲の形のチョコレートをくれてな。
……う、うん……。
正直嬉しかったが、さては明石のヤツ。私も虫歯にするつもりかとおもったので、チョコレートは食べずに、ニスにどぶ漬けして固めた。
それ、どうすんの?
部屋に飾る。
あ、そう……(ええー? という顔)
まったく、明石は油断がならない。
……あ、いやそれ、単にヴァレンタインチョコが余ったから持ってきてくれたんじゃないかな。
なんか最近はそういう立体のチョコレートが流行っているそうだし。
そもそも飛行機は飛ばないことには飛行機ではない。
食べるためにあるものじゃないからな。
う……うん……そうだねぇ。
……というか、その「ばれんたいんちょこ」とはなんだ?
あ。憶えてない。
知らんな。
そっかー。
……で、なんだ? 「ちょこ」は「チョコレート」か?
それとも「猪口」か?
いやいや……なんでそう誤変換するかなー。
「チョコ」は「チョコレート」よ。二月十四日のバレンタインデーに、特別な相手にチョコレートを送るの。主に、女の子から男性に。
あたしたちは、艦娘同士で送り合いっこするのが流行ってるかな、基地にもよるけど。
ふぅん。
あと、提督に送る子もいるわね。こっちは男女関係なく。
……ふむ。
その、「ばれんたいんでー」とやらで、誰かに送るのは、チョコレートじゃなくてもいいものなのか?
いいんじゃない? ウチの鎮守府の子で、明石にネジ送ってった子がいたわよ。
それで装備改修を優先的やってもらうんだーって。
……それはただの賄賂では?
ははは、そうかもしんないけどさ、それも気持ちだからね。
……ふむ。そうか。
……ふふふ……。
なんだ?
ううん。
……実は、私の相棒……日向だったんだけど、実は海戦中に行方不明になっちゃって、戻ってこなかったのよ。結局、沈んだってことで処理されちゃった。
………。
そうか。それは気の毒だったな。
こないだの海戦はさ、実は私の日向が行方不明になったとされてる海域に近くて。だからもしかしたらどこかにいるんじゃないかって、そっちばかり気になっちゃって。
気が入ってなかったもんだから、流れ弾みたいなのにぶつかっちゃっって、故障・漂流しちゃってさー。
………。
もうダメかなーって覚悟したときに、もう一度日向に会いたかったなー、もう無理だなーって思ったんだけど、まさか助けられた先に『日向』がいて、願いが叶うなんてね。
すまなかったな、君の日向ではなくて。
いやいやー変な期待した私がダメなんだってー。
だってもう一年以上前の話なんだよ、日向が行方不明になったのは。
当たり前の頭で考えたら、望みなんてこれっぽっちもないって、分かるよ。
ほーんと、バカだよねぇ……あたしは。はははは……。
………。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 司令官室 ヒナセ、日向、鳳翔、電
提督。ちょっといいか。
んー? なに?
話がある。畑に出ないか?
……(鳳翔と電のほうを見る)
(鳳翔がうなずく)
わかった。ちょっと出てきます。
すまんな、足労をかけて。
いえいえ、他ならぬ日向君《ヒナタくん》の頼みなら。
……日向《ひゅうが》と呼べ。
私を「ヒュウガコ」って呼んだのは誰だったっけ?
………。
せめて司令官室では、愛称はやめてくれ。
なんで?
恥ずかしい。
日向《ひゅうが》でも恥ずかしいと思うんだ。へー。
いいから、行くぞ。
はいはい。じゃ、行ってきまーす。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 菜園の一角 ヒナセ、日向
……で、話ってなに?
伊勢のことだ。
うん?
……私は、あの伊勢を知っている。
だが、彼女の元に帰る気はない。
伊勢は日向と共鳴していたと言ってたけど。
うむ。その相手が私だ。
じゃ、なぜ?
もう共鳴していないからな。
壊れた際に、その部分も壊れてしまったんだろう。
………。
それが理由じゃないよね?
……鎌をかけるか?
うん、そう。
……まったく、君は変な人間だ。
もうちょっと言い様はないのかな?(苦笑する)
鎌をかける理由は何だ?
直感。
それだけか?
そう。
……そうじゃない理由を強いて言えば、自分の体験から、なんとなく察する何か、かな。
そうか。
別に、君の中にある理由をすべて喋って欲しいわけじゃないし、喋りたければ話を聞くくらいはできるけれど……ってところ。
正直言えば、君は今ではもうウチの基地の貴重な存在だから、このまま残ってくれるととてもありがたいし助かるよ。
でも、それでいいのかい? って思うのも正直な話だね。
……まぁ、正直言えば、伊勢のところじゃなくて、元いたところに戻りたくない。
そしてここは居心地がいい。自分の場所もあるしな。
なるほど。じゃ、話は簡単だ。
どのみち、伊勢は所属基地に連絡済みで、体調が回復しだい鹿屋経由で戻すことが決まってる。
君がこのまましらんふりを通して、伊勢が帰ってしまえば一件落着だ。
そうだな。
でもね、日向。もし一緒に戻りたくなったら……
いや、それはない。
……提督と伊勢はデキていてな。私はそれが辛かったんだ。
………。
……というのを、アイツが運び込まれて来て、思い出した。
……今までだんまりを通してたわけね。
提督。もう私はこの基地でしか生きられない艦だ。
元の基地に戻ったり他の基地に行ったとしても、記憶にあちこち穴が開いていて、艦娘としての能力も半分以下しか使えない今の私は、たぶんもてあまされて解体されるのがオチだろう。
そのくらいは、私の壊れた頭でも理解できる。
そこまで卑下しなくても……
本来なら修復せずに機能停止を待って解体する状態の艦《ふね》を、君はそうしなかった。
だから、君は私に対して最後まで面倒を見る責任がある。
……そっちに話が流れるんだ。
そういうことなので――
日向。
――なんだ?
今までの話は聞かなかったことにするよ。
………。
それがいいんじゃないかな。
……そう……だな。
すまない提督。
(肩をすくめて)そーだなー……スイカ、食べない?
たまには、他の子に内緒でさ。
は? いいのか?
いーさいーさ。
じゃ、そーしようそーしよう。
あ、ああ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 入渠ドック ヒナセ、日向、伊勢、鳳翔、電
やだ、それどうしたのさー、ひゅうがー。
……ちょっとな。
……て、あれ? 提督も?
……は……ははは……。
悪いことはできない……てね。
何? なにか悪いことでもやったの? 二人で?
……まさかあんなことになるとは思わなかったぞ、提督。
うっかり忘れてました。ごめん。
提督、日向さん。氷です。お口に含んでいてください。
日向さんは、こちらも。手を冷やさないと。
ひどいようでしたら、入渠されてくださいね。
ふわぃ……。
うむ。ふばない……。
なんなのー? これ?
畑でこっそりスイカを割って、二人で召し上がったんですよね。
………。
………。
司令官さんと日向さん、ヤケドをしたのです。
取ってすぐに割ると、スイカは煮えているのです。熱熱なのです。
なにそれ。やだー(爆笑する)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○その夜 司令官室 ヒナセと鳳翔
大丈夫ですか?
……はい、なんとか。
分かっててやりましたよね。
………(申し訳なさそうに笑う)
ま、場を盛り上げるために……
ヒナコさん、ご無理をなさってはいけませんよ。
すみません。
でも、時には道化ることも必要ですよね。
………。
お夜食はいかがされますか? お夕飯、あまり召し上がれなかったのでしょう?
まだ口の中が腫れてて。
熱いスイカ、美味しかったですか?
はい。
……小さいときのことを思い出しました。
親に隠れて、兄たちとこっそりやったものです。すぐにバレるんですけどね。
そうなのですか?
ええ。
アレは当時、とても不思議だったんですけど、大人になって分かりました。
手塩にかけて世話している畑は、どこに何があるか、全部憶えていられるんです。今なんかが、まさにそうです。
だから、害獣に荒らされるとすぐにおわかりになるんですね。
いやいや、あれはとてもわかりやすい。まれに誰かが盗みを働いてますけど、たいがい分かってますよ。うふふふ……。
(ふんわりと笑って)お気を付け下さいまし。
はい。
……さて、どうしたもんかなぁ。
日向しだい……なんだけど。
日向さんのお気持ちに偽りはないと思います。
そうですか?
はい。……提督。
はい?
以前、日向さんに愛称をお付けになったでしょう?
はい。
それは、艦娘にとって、とても需要なことなのですよ。
あなたが、私を「鳳翔《おかあ》さん」とお呼びになることも。
………。
それは……知りません、でした。
士官学校では教えないことですからね。
……じゃ、マズっちゃったかなぁ。
どうされました?
伊勢にですね、ちょっと……。
はい?
伊勢の前でうっかり日向を『ヒナタ』って呼んじゃって。
そしてら伊勢が「いいなーいいなー」って何度も言うもんで、うっかり「じゃ、『ヴェラ』で」って言っちゃったんです。
あら。
マズかった、ですよね。
……いえ、大丈夫だと思います。
伊勢さん、あちらの専属艦なのでしょう?
ええ。
そして、根幹情報は破損していない。
そうです。
だったら大丈夫です。
そうなんですか?
ええ。私は……いえ、『鳳翔』は、練習艦である場合、たいがいの学生さんから「おかあさん」と呼ばれますが、それに影響されることはありません。
所属の提督から別称・愛称を付けられることが、その艦娘にとって特別なことなのです。
そっか……よかった。
そうでなければ、提督に所属している艦娘を手に入れる為に、別の提督が愛称を付けるようになります。
それは、艦娘の存在意義、そして提督システムの根幹が揺らぐことになりますので。
無用な争いをしないよう……ってことか。
その通りです。
ご存じの通り、提督に所属している艦娘は、艦政本部を除いて、鎮守府、各基地、提督間でこれをやりとりすることはできません。提督が退役もしくは戦死した場合は、艦政本部の管理下に置かれ、次の提督の元に派遣されます。
なぜそのようなシステムになっているかと言えば、先ほど提督がおっしゃったように、提督間の無用な争いごとを避けるため、そして不正防止のためです。
なるほど。そこがザルだと、海軍という組織自体が瓦解する危険性があるわけですね。
ええ、その通りです。
ありがとうございます。さすが鳳翔さんですね。
いえ、そんな……。
……ところで提督、なぜ『ヴェラ』さん、なのですか?
え?……(えへ、と笑い)
イセワン台風の国際名が『Vera《ヴェラ》』なんです。
あら、そうだったんですね(笑う)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 物見の丘。 伊勢、日向
ここにいたのか。
……日向。
何を見ていた?
……海。
いや、その向こうかなぁ。
海の向こう?
……あっちは本土だな。
うん、そう。
帰りたいか。

そーだねぇ。ここ、いいところだけどね。

うむ。それは否定しない。
のんびり暮らすことが許されるならば、ずっとここにいたい。
ここに来て、そう思う艦娘は少なくない。
無論、そうでないのもいるがね。
そうなの?
ああ。戦いに倦んでいない者、あるいは戦うことで自分の存在意義を見いだしている者は、ここが辛いところのようだ。
もっとも、ここに来るのは主に後者だが。
そっか……。
お前はどうだ? ここにずっといたいと思うか?
んー……それは、ちょっとないかなぁ。
なぜだ?
……うん……提督のところに帰らなきゃ。
あの人、あたしがいないと、なんにもできないじゃん。
………。
そうだな。
……!
………。
………。
なんだ?
あ……いや……何でもない。なんでも……ないよ。
そうか。
……ならば、お前は自分の提督の元に帰るべきだ。
居場所があるなら、そこに戻るのがいちばんだ。
……私が自分のことをいろいろ思い出せないのは、元の場所に自分の居場所がないからかもしれん。
………。
ならば、ここにいようと思う。
ここは私の居場所があるし、仕事がある。
大したことはできないが、それでもいいと言ってくれる提督がいる。
われわれ艦娘は道具だ。必要としてくれるところに収まるのがそれぞれの幸せだ。
……そう……だね。
………。
そういえば……あの掘っ立て小屋。
ん? ああ、ドックか?
そう。あそこ、日向が壁を塗ったの?
そうだ。よく分かったな。
……うん、なんとなく。そっかな……って。
……そうか。
うん、そう。
そうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○司令官室
ねぇぇえん、ていとくー。てーとくぅぅぅ。
………。
まだなのー。あたしもぉ帰りたいぃぃぃぃぃ!!!
ねぇねぇ。
……ヒナタ。
……だから、その名前は司令官室《ここ》では使うなと言っているだろう。
そんなことどうでもいいから、アレ、なんとかしてよ。
……さてどうしたもんかな。
ねぇぇぇってばぁぁぁ!!! もうとっくに体調十分になってんだから、帰りたいよぉぉぉ!!
伊勢。お前は今は菜園八区の草取りに従事しているはずだよな?
私が緊急で司令官室の修理に呼ばれたからといって、いちいち付いてこなくていいし、それよりも自分の仕事をきちんとやれ。
ここでは『働かざる者食うべからず』だぞ。
えー! ねぇねぇ提督ー日向がいじめるんですー。
………(頭を抱えている)
伊勢、今朝も話したろう?
この基地は艦《ふね》をホイホイと長距離航行に出せる余裕がないから、君は次の『明石』便で鹿屋に戻るよう手配しているって。
えー? やだー。『明石』って狭いし遅いし常にざわざわしてて落ち着かないー。
なら、次の間宮さん便になるけど、さらにひと月向こうの話になるんだけど?
遅くなるのはもっとイヤでしょ。
ううーん……でも甘いものに囲まれる生活は捨てがたいなぁ。
たった二日とはいえ、唐突にいい目を見ると、あとが大変だぞ。
それぞれには尺にあった生活というものがあるから……
やっだー日向ー。もう冗談が通じないんだからー。
………。
すまなかったな。
あれ? 拗ねた?……えへへ、ゴメンね。
……まぁいい。とにかく仕事の続きをするがいい。
提督に迷惑をかけるな(つまみ出す)
やーん。日向ったら乱暴なんだからー(言葉とは裏腹に、楽しそうにつまみ出される)
(振り返って)提督。
あん?
騒がせてすまなかったな。
まぁこういう賑やかしさはなかなかないから、たまにはいいよ。
すまん(伊勢と一緒に出て行く)
(日向を見送って)……だいじょうぶでしょうか、日向さん。
……大丈夫でしょ。
あとはもう、本人次第ですから。
………。
もし、ギリギリのところで、伊勢と一緒に戻りたいと言い出したら、それはそれで、叶える努力をします。
(頭を掻きながら)ま、そうなった場合、本人の希望に添えるかどうか、なんとも言えないんですけどねぇ。
………。
日向はかしこい娘《こ》です。
自分にとって最適な解を出せます。きっと。
------------------------------------------
まったくお前というヤツは……。
いーじゃん、減るもんじゃなしー……あいた!
減りはしないが向こうの仕事が増える。
だーってー。日向がどんなお仕事してるか、おねーちゃんとしては気になるよ?
……姉妹艦の姉には変わりないが、だからといって姉が妹の邪魔をしてどうするんだ。
えええー! 邪魔なの? おねーちゃん邪魔なの?
……うるさい。いいからとっとと畑に戻れ。
(あ、伊勢さんだ! 伊勢さーん!)
(ホントだ-。伊勢さーん!!)
……お?
………。
(駆逐艦が駆け寄ってきて)伊勢さん伊勢さん。ホラこれこれ見て見てー(大きく丸く包んだ両手を差し出す)
なになにー? (覗き込む)
ばぁ! (ぴょん! とトノサマガエルが飛び出す)
わぁぁっっ!!
………。
(駆逐艦たち爆笑)
なにこれ!? ええ? か、カエル!?
カエルカエルー(ゲラゲラ笑う)
昨日、もっと面白いモノ見つけたら見せてよって言ってたから。
さっきね、草むしりしてたら出てきたの。
(飛び出したカエルは、ベショベショと跳ねて逃げていく)
あ、待て待て!!(追いかける)
ひゃー……あんなに大きなカエルは初めて見たわー……じゃ、あたしも加勢しますか!
待て待てーー!!
……おい、伊勢……
待て待てー!!
あ、そっち逃げた! 見かけによらずすばしっこい、コイツ!!
伊勢さん、そっち行った!
よし! 回り込む……って、あいたー!!
(カエルを追いかける3人を見ながら)……やれやれ……(口では呆れているが、口元はうっすらと微笑んでいて…)
伊勢さんブロックー!!
ホイ来た、まっかせて-!
(カエルを追いかける伊勢に向かって)おーい伊勢、そいつは貴重なタンパク源だからな、潰すなよ。
え? (びっくりして停まる)
そして確実に捕まえろ。今日の晩メシが一品増える。
ええええ!!!(驚きのあまりにカエルをブロックできずに逃がしてしまう)
あー伊勢さんったらー!!
逃げちゃったー、タンパク質ー。
えええー!?
……ふ(堪えきれなくて笑う)
ま、そうなるな。
(遠くから)あ! ひっどーい、日向。
今めちゃくちゃ笑ってるでしょ!!
(伊勢の言葉に駆逐艦たちが驚いて日向を見る。
しかし見える日向は微笑んでいるばかりで……)
拍手送信フォーム
Content design of reference source : PHP Labo