へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

せんかんとてーとく

せんかんとてーとく 本文

ごくまれに、ヒナセさんだって爆発しちゃうことがある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
○ヒナセ基地司令官室 ヒナセ、鳳翔、電、武蔵、隼鷹。
緊張した空気が流れている。
ヒナセ
………。

 

鳳翔

武蔵
隼鷹
………。
………。
………。
………。

 

ヒナセ
(ガタン、と立ち上がり)ちょっと、出てきます。

 

鳳翔
……あの——

 

ヒナセ
(ギョロッと見る)

 

鳳翔
っっ……お気をつけて。

 

ヒナセ
(ちょっと顔をしかめて止まり、小さく会釈して出て行く)

 

しばらく緊張した空気が流れていたが、
ヒナセが司令棟から出て行った音を聞く(艦娘の聴力で聞こえる程度)と、ほーっと安堵の息が全員から漏れる)
隼鷹
(ややあって)……なんなんだい、ありゃ。

 

鳳翔
(苦笑気味に)ごく稀にですが、こういう日もあります。

 

ご機嫌がとてもお悪い日があるのです。
司令官さんにもどうにもできないようなのです。

 

隼鷹
はぁん? ……あんがいめんどくさいお人だなぁ。

 

武蔵
鳳翔よ、先日、本部で何があった?
帰りの道中もずっとあんな感じだったが?

 

鳳翔
……いつものことです。

 

隼鷹
いつも?

 

鳳翔
ヒナセ提督のことを羨む提督がたも少なくありませんから。

 

隼鷹
あん? ……へー、そうなの(なんだか得心した顔)

 

鳳翔
ええ。

 

隼鷹
それでなのね。

 

武蔵
なんだ?

 

隼鷹
鹿屋《本部》にあまり行きたがらないじゃない。

 

武蔵
………。
隼鷹。

 

隼鷹
あん?

 

武蔵
ここ、間違っている。

 

隼鷹
あん? あー……わりーわりー。直しといて。

 

武蔵
自分でやれ。

 

隼鷹
へぇへぇ(渋々仕事を再開する)

 

鳳翔
(仕事が一段落したので、お茶の準備を始める)

 

はわわ、ほ、鳳翔さん、お手伝いしますのです。

 

鳳翔
ええ、お願いします。

 

------------------------------------------
○ヒナセ基地 菜園の端っこ。
ヒナセがものすごい勢いで草刈りをしている。
めちゃくちゃ機嫌が悪い。
ヒナセ
くそったれ、くそったれ、くそったれ……。
誰が運がいいだ。軍族なんて……軍族なんて!!
こちとら好きで繋いだ縁じゃねーよ! そもそもアサカの長男だなんて、
これっぽっちも知らなかったよ!!
教官の立場を利用して近づいてきて、さんざんまとわりついて、勝手に盛り上がって。
いきなりプロポーズしてきたのはあっちだっつーの!
行きがかりで結婚したら、たった三日で、勝手に死んじゃって!
アサカの長男だったなんて、十年以上経ってから知ったよ。
それのどこが幸運だ。くそったれ!
そんなもの、熨斗つけて譲ってやるよ!
とっとと籍を抜いておくんだった……。無知は罪だ!! くっそー!!!

 

悪態をつきながらひたすらに草刈りをしているヒナセを、
別々の位置から見つめる艦娘二人。
日向と武蔵。
日向は武蔵がいることに気がついて、歩いてくる。
日向
心配して来たのか?

 

武蔵
そういうワケじゃない。ただ……

 

日向
ただ?

 

武蔵
部屋の主が戻ってこないと、おやつが始まらない。

 

日向
………。
ほっといて先に食べたらいいだろう。
冷めたり溶けたりするものでなければ、デスクの上に置いてやっておけばいい。

 

武蔵
私もそう思うのだが、鳳翔と電が手をつけないからな。

 

日向
なるほど……ん? 今日は隼鷹もいなかったか?

 

武蔵
隼鷹は何物にも囚われない。

 

日向
なるほど。
じゃ、お前も師の教えに従えばいい。
提督は気にしないぞ。

 

武蔵
………。

 

日向
……あんがい気を遣うタイプなんだな。

 

武蔵
(バツが悪そうに)そういうわけではない。

 

日向
そうか。

 

武蔵
で、アレは何に対して怒っているんだ?

 

日向
さぁな。人間同士の利害関係とやらは、いろいろと大変そうだな。
ただ、彼女の今の怒りの根源は、彼女自身にもどうにもできない事象だからな。

 

武蔵

 

日向
彼女は未亡人だ。

 

武蔵
ミボウジン?

 

日向
知らないか。
もともと伴侶がいたんだ。

 

武蔵
ハンリョ?

 

日向
お前にとっての隼鷹かな。厳密には違うが。
『伴侶」というのは、我々にとっての“母親”には相当しない。
……隼鷹の、お前に対する“母親”の部分がないものだと思えばいい。
そして、多くの人間にとっては、『伴侶』は同性ではない。
鹿屋《本部》には男の提督がたくさんいるだろう?

 

武蔵
ああ。

 

日向
多くの人間の女にとっては、伴侶は人間の男だ。

 

武蔵
ふうん。

 

日向
興味がないか。
困ったヤツだな。

 

武蔵
困るのか?

 

日向
もしここから出されて、次に仕える提督が男で、さらにお前を求めてきたら、お前はその時どうするのかな。

 

武蔵
……?

 

日向
……なるほど。
提督と隼鷹が、お前を手放さそうとはしないわけだ(目を細める)

 

武蔵
で、提督の『伴侶』とやらはどこにいるんだ?

 

日向
もうこの世にはいない。

 

武蔵
いない……(ちょっと考え込んで)……解体されたか轟沈でもしたのか?

 

日向
人間は解体されない。

 

武蔵
じゃ……

 

日向
轟沈もしない。

 

武蔵
………。

 

日向
……が、表現としては悪くない。
海中に没したらしいということだから、轟沈と言ってもあながち間違いではないかもな。
武蔵、轟沈とはなんだ?

 

武蔵
敵にやられて沈むことだ。

 

日向
敵にやられて沈めば、我々はどうなる?

 

武蔵
……罐《カン》の火が完全に落ちた時、この世から消えるな。

 

日向
そうだ。人間はそのことを『死』と言ってる。
『死ぬ』と言うときもある。意味はどちらもほぼ一緒だ。

 

武蔵
ほぼ?

 

日向
『死』は名詞だが、『死ぬ』は動詞だからな。

 

武蔵
なるほど。

 

日向
ふふ……。
つまり、ずいぶん昔——士官学生の頃に『伴侶』を得たが、すぐに死んだということだ。
任務で偵察に出て、戻ってこなかったらしい。
私が知っているのはこれくらいだ。本人から聞いた。

 

武蔵
そうか。
……それは、辛いな。

 

日向
ずっと忘れていられればいいのだろうがね、
なかなかそうもいかないらしい。
ずっと独り身でいるのも、だからかもしれんな。

 

武蔵
ふむ……。

 

日向
………(武蔵を見て微笑む)

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○夜 ヒナセの私室。
誰かがノックする。
ヒナセ
誰———……って、ちょっと待った……
(入ってきた大きな影に、顔が青くなる)

 

音もなく入ってきたのは武蔵。
ヒナセは寝る準備のために着替えを終え、クルーTシャツにボトム。
ボトムのベルトはベルト通しから外してはいないがベルト自体は開いてあり、
さらにフライ《前立て》のファスナーは下ろしてくつろげている。
靴は脱いでいるが、靴下は履いている。
緊急事態が発生した時にそなえて、夜は常にこの状態で寝ている。
冬はTシャツではなく、ワイシャツであることも多い。
ときどき電と一緒に寝る際もこの状態。
夜中にうなされる駆逐艦の布団に潜り込む際も同様である。
ちなみに、カワチ提督も就寝の際は基本この状態らしい。基本的には。
武蔵は無言のまま、ヒナセに近づく。
ヒナセ
待て。待て武蔵……(じり…と後ずさるが、下がっただけ武蔵が近づいてくる)

 

武蔵
……提督よ。こちらに来るがいい。

 

ヒナセ
いや、ちょっと待って……来いと言われてもね……
(自室の扉のほうにじりじり移動しようとする)
というか、何の用だい? こんな、夜中に。
(扉の距離を確認しようとして、武蔵から一瞬視線を外す)

 

武蔵
(ヒナセの視線が外れた一瞬の隙を突いて、ヒナセとの間合いを一気に詰め、ヒナセの右手首を捕らえる)

 

ヒナセ
……っっっ!!!
む……武蔵……。

 

武蔵
なに、悪いようにはしない。

 

ヒナセ
武蔵……stay……ステイ……。
てか……誰の差し金……かな?

 

武蔵
誰でもない。私の判断だ。

 

ヒナセ
………。

 

武蔵
そんなに抵抗するな。腕が折れる。
人間は我々よりも脆弱だから、力加減が難しいんだ。

 

ヒナセ
~~~………(なんてこっった。まさか……まさか………)

 

武蔵
そうだ……力を抜け。

 

ヒナセ
(ああ……ダメだ……鳳翔《おかあ》さん、デン……カワチ……。
やっぱり私は、超弩級戦艦を御する力量なんてなかったんだ……
とにかく、明日をできるだけ無事に迎えないと………)

 

ヒナセが抵抗を止めて力を抜いた瞬間、
武蔵がすくい上げるようにしてヒナセを抱きかかえ、ヒナセのベッドルームに向かう。
ベッドルームに入った武蔵は、器用にヒナセを片手で抱え直し、クロゼットのところに行き、乱暴に中をかき回す。
武蔵
……提督よ、貴様、寝間着も持っていないのか?

 

ヒナセ
……へ?

 

武蔵
こんな格好で寝ても疲れが取れないだろう。寝間着はないのか?

 

ヒナセ
……ありません……。

 

武蔵
夏に駆逐艦たちと昼寝をする際に着ているアレはどこだ?

 

ヒナセ
……えっと……甚兵衛かな?

 

武蔵
そうだ、あれだ。

 

ヒナセ
いや、アレは時期的に寒いので、夏物と一緒に片付けました。……鳳翔さんが。

 

武蔵
……じゃ、わかった。

 

ヒナセ
(ホッと息をつく)

 

武蔵
では、剥く(ヒナセが履いているボトムと靴下を器用に脱がせる)

 

ヒナセ
ぎゃー!!! やめてーーー!!!

 

武蔵
いいから大人しくしろ!
(片手で抱きかかえたままベッドに向かう)

 

ヒナセはジタバタと暴れて逃げたい気持ちでいっぱいだが、
それをやって床に落ちるほうが痛い目に遭うことも知っているのであえて大人しくなすがままになっている。
武蔵は一旦ベッドに腰掛け、ヒナセごとベッドに潜り込むと、片手でヒナセを羽交い締めにしたまま、寝具を器用に自分たちにかける。
武蔵
さ、寝ろ。

 

ヒナセ
……いや、この状態で寝ろと言われましても……。

 

武蔵
提督よ、貴様は疲れているのだ。

 

ヒナセ
いや、疲れてない。疲れてませんから。
(じたじたと暴れるが、相手は武蔵なので何をしても無駄)

 

武蔵
いいや疲れている。いいか、体は疲れていないかもしれんが、心が疲れている。
だから昼のようなことをするんだ。鳳翔も電も困っていたぞ。

 

ヒナセ
………。

 

武蔵
私も困った。いつまでもおやつが食べられなかったからな。

 

ヒナセ
……そこかよ……。
~~~わかった。わかったから。もういいよ、ちゃんと寝るから。

 

武蔵
いいや、ダメだ。今日は私と寝るんだ(言うと、胸のサラシをしゅるりと解く)

 

ヒナセ
ちょっと待ってください、武蔵さん?
なぜ君が脱ぐ?

 

武蔵
……こういうときは、人肌がリラックスできるのだ。
……隼鷹が、いつもそう言っている。

 

ヒナセ
(え? と武蔵を見上げる。ふてくされたようなバツが悪いような顔が見える)

 

武蔵
隼鷹みたいに柔らかくないが、そこは我慢しろ。

 

言うと、ヒナセの頭を自分の胸にそっと押し当てる。
ヒナセの耳に武蔵の鼓動がかすかに聞こえてくる。
背中をそっと撫でられる感触。
そして徐々に武蔵の体温が伝わってきて、それが心地いい。
ヒナセ
(まどろみながら)……武蔵。

 

武蔵
なんだ。

 

ヒナセ
こんなマネ、二度としちゃいけない。

 

武蔵
だったら、もっときちんとしろ

 

ヒナセ
……善処…す——……

 

武蔵の耳にヒナセの寝息が聞こえ始める。
武蔵は、自分がよくされているように、ヒナセの背中をぽんぽんとなで続ける。

やがて、武蔵自身がうとうとし始めたとき、ヒナセのベッドルームの扉がスッと開く。
よ、ごくろーさん。

 

武蔵
……お前か(目をこする)

 

声の主は隼鷹。
足音を忍ばせて、ベッドに近づいてくる。
隼鷹
……よく寝てんね。

 

武蔵
そのようだ。

 

隼鷹
オマエさんも眠そうだ。

 

武蔵
提督がぬくくてな。

 

隼鷹
じゃ、そのまま朝まで寝てれば?

 

武蔵
………。

 

隼鷹
一眠りして目が醒めたら戻ってくればいいさ。アタシゃかまわないよ。
なんなら、提督が目覚めるまで一緒にいれば?(ししし、と声なく笑う)

 

武蔵
………(ちょっと憮然とした顔)

 

隼鷹
(武蔵の頭を撫でて)ヨシヨシ。
……ヤなことさせちゃったねぇ。明日、姐さんがたっぷりご褒美をあげるよ。

 

武蔵
……嫌……ではない。それよりも隼鷹。

 

隼鷹
ん? なんだい?

 

武蔵
お前にこそ悪いことを。

 

隼鷹
ばぁか。
……てか、オマエさんも大人になったもんだねぇ、偉い偉い(頬を撫でる)

 

武蔵
(隼鷹の手に、さらに頬をすりつける)

 

隼鷹
ほんじゃま、オマエさんが満足するまでそうしてな。アタシゃ部屋に戻るわ。
ヒナセさん起こしちゃかわいそうだし、勝手に私室に入ったのがバレたら、カワチ提督(ウチの旦那)に大目玉だ。ひひ……。

 

武蔵
うむ、おやすみ。明日、楽しみにしているぞ。

 

隼鷹
はいはいじゃねー(手をひらひらさせながら部屋から出て行く)

 

扉がパタンと小さな音を立てて閉まる。
------------------------------------------
○同夜 ヒナセ基地 戸外
隼鷹が夜の海を見渡す。
風がやや強い。
やぁ。どうだったかい?

 

隼鷹
出刃亀ですかい? 提督。良いご趣味だ(ひひひ、と笑う)

 

声の主はカワチ提督。
カワチは妙高を連れている。
カワチ
いやいや、妙高さんと歩いていたら、武蔵がヒナセ司令のところに入っていくのが見えて、 さらにぐるっと一巡りして戻ってきたら君が出てくるのが見えたから、 ちょっと引っかけてみただけさ。

 

隼鷹
妙高さんとデートしながら? そらー悪趣味だ、はははは。

 

カワチ
デートというか……ね。

 

妙高
見回り、ですわね。

 

隼鷹
おや、今日は夜番で?

 

カワチ
そういうことだね。

 

※補足…夜番の見回りは二人一組で行う。
なにか不測の事態が起こった場合に備えて、
一人ではぜったいに行動しない規則になっている。
 
隼鷹
それはそれは、お疲れさまです。
提督、アタシゃ酷いヤツかもねぇ。

 

カワチ
どうしてそう思うんだい?

 

隼鷹
だってさー、ヒナセ提督のトコに武蔵が行くって自分から言い出したとき、わざと止めなかったんすよ。ホントはさ、アイツ、気乗りしてなかったのにさー。

 

カワチ
ほう、君の差し金ではなかったわけだ。

 

隼鷹
違う違う、ゼンゼン。
正直、アタシだって嫌だもん。でもさ、アイツ、イロイロ考えたみたいでさ。
いきなり「今晩、提督のところに行こうと思う」なんて言い出すんだもん。びっくりしたよね。誰の入れ知恵かとおもったね。
でもさー、言うわけ。
「よくやってもらってるみたいにすればいいのか」ってさ。
もー、さらにびっくりよ。……コワいね、大和型って。
マジ怖い。
聞き分け良すぎて勘も良すぎてコワい。
だからさ、アタシ、あえて止めなかった(ひひ、と口をゆがめて笑う)

 

カワチ
なぜだい?

 

隼鷹
やだな提督、分かってんでしょ?

 

カワチ
さてどうだかね。

 

隼鷹
………。
今日のことは、明日にでも叱られるんだろうけどさ、
でもヒナセさんがサ、あの武蔵をサ、今以上に気に入ってくれてサ、
自分の手元から離したくない、ずっと置いときたいって少しでも思ってくれたらサ、 アイツはここから出て行かなくても良くなるじゃない。
アイツにはサ、アタシみたいな苦労っていうか、気持ちを味わせたくないんだよねぇ。真剣に。

 

カワチ
そうか。
しかし、すごい博打を打つね。ヒナセがああいうこと好きじゃないって、知ってるだろう君は。

 

隼鷹
まねー。でも相手は武蔵じゃない。アイツはそんなところまで気は回らない。ヒナセ提督だって、武蔵にゃ甘い。
なんつっても、まだまだオコサマだからねぇ。

 

カワチ
自信満々だね。

 

隼鷹
そりゃね。アタシの“子”だもん。オツムがどのくらい成長してるか、アイツのご主人がアイツをどう思ってるかくらいは分かりまさ。

 

カワチ
そしてこの楽園にずっと縛り付けておきたいわけだ、“母親”としては。

 

隼鷹
もちろんですよ。いい悪いは別としてね。

 

カワチ
いやいや、大いに結構だね…(腕時計を見て)…っと、そろそろ行こうか。潮高の観測もしておかないといけないんだった。

 

妙高
ええ、そろそろお時間ですわ。

 

カワチ
うむ。じゃ、呼び止めてすまなかったね。

 

隼鷹
いえいえ、こちらこそデートのお邪魔しちゃって。

 

カワチ
ふふふ……君こそ、眠れない夜を過ごすんじゃないよ。

 

隼鷹
あ。それは大丈夫。今夜はひとりゆーっくり眠らせてもらいますよ。

 

カワチ
そう。ではおやすみ。

 

妙高
おやすみなさい。

 

隼鷹
へぇい。おやすみなんしょー。

 

隼鷹、手を振って見送る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○翌朝 ヒナセ基地 菜園
日が昇ろうとしている早朝。
ヒナセが菜園で大きくのびをしている。
足下には本日の作業用の道具一式。
そこに日向が来る。
日向
今日は特に早いな。

 

ヒナセ
おかげさまで、ぐっすり寝てね。

 

日向
なるほど、それは重畳。

 

ヒナセ
ところでヒナタ。

 

日向
なんだ?

 

ヒナセ
何か武蔵に吹き込んだ?

 

日向
いや、特に何も。

 

ヒナセ
あそ。まいいか。

 

日向
何があった?

 

ヒナセ
ちょっとね……夜這いを。

 

日向
君がか? それはまた斬新なことだな。
鳳翔や電にはなんと言うつもりだ?

 

ヒナセ
いやそうじゃなく。

 

日向
……で、どっちがタチだ?
君が夜這いをしたならば、武蔵がシテか。それもすごい話だな。

 

ヒナセ
いや、そうでもなく。

 

日向
何だ、武蔵がタチで君がシテか。つまらん。

 

ヒナセ
いやだから、なんでそうなるんだよ。

 

日向
冗談はこれくらいにしておくとして、武蔵は君のところに行ったのだな。
……で首尾はどうだった? きちんと君の相手ができたか?

 

ヒナセ
……えーと、途中までまともな話に戻ったと思ったのに、
途中からどうしてそうなった?

 

日向
なんだ? 要領を得んな。

 

ヒナセ
いやいやいや。そうじゃなくて。

 

日向
……で、実際はどうだったんだ?

 

ヒナセ
だから最初に言ったじゃない。ぐーっすり寝たって。

 

日向
……だから、やるべきことをやって、
疲れたからぐっすり眠ったわけではないのか。

 

ヒナセ
違います。ただ単に寝ただけ。
武蔵は体温が高くてね。あと、胸がふかふかだった。

 

日向
……ますます要領を得ん感じに話が展開しているぞ?

 

ヒナセ
だからー、武蔵と半裸状態では寝た。でもなんにもなかった。ただ寝ただけ。

 

日向
いや、それは分かっている。

 

ヒナセ
分かってんなら、どうして話を混ぜっ返すかな。

 

日向
君の反応が面白いからな。

 

ヒナセ
イヤイヤそれ待ってよ

 

日向
先ほども言ったが、武蔵が君のところに行ったのならば、
それはアイツが自分で考えたことだろう。

 

ヒナセ
ホントに?

 

日向
隼鷹に相談くらいはしたかもしれんがな。

 

ヒナセ
………。

 

日向
納得いかんという顔だな。

 

ヒナセ
そりゃね。体はでっかいけど中身はまだまだ子供だと思っていたからね。

 

日向
子供かもしれんが、子供は確実に成長するからな。
武蔵が成長しない子供であるはずがなかろう。

 

ヒナセ
……それもそうか。

 

日向
……で、昨日噴き上げていた悩みか不満は解消されたか?

 

ヒナセ
まぁね。ぐっすり寝たらスッキリした。
鹿屋《むこう》に行ってから、睡眠が浅かったのは認めるよ。

 

日向
それは良かった。寝不足はすべての敵だ。

 

ヒナセ
それは大いに反省しました

 

日向
ならば良い。
鳳翔と電にも謝っておくといい。
君の不機嫌に付き合う彼女らがとても気の毒だ。

 

ヒナセ
そうします……てか、隼鷹が入ってないね。

 

日向
武蔵曰く「隼鷹は我が道を行く」そうだ。
おやつを食べ損ねはしていないようだ。

 

ヒナセ
……左様で。

 

日向
うむ。……では、ここの作業は私に任せて、
今から鳳翔と電のところへ行ってこい。ほら(尻を叩く)

 

ヒナセ
ええー……今から?

 

日向
善は急げというだろう。ホラ。

 

ヒナセ
……わかった。行ってくる。

 

道具をそのままに、司令部棟へと歩き出す。
日向はそれを見送りながら。
日向
……やれやれ、手のかかる司令官だ。
どちらが子供なんだか。

 

苦笑していると、朝の作業をするために武蔵と隼鷹が連れ立って菜園に歩いてくるのが見える。
それを見ながら、日向は目を細める。
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