へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

ヒナセと電・風の道しるべ

ヒナセと電・風の道しるべ 本文

○ヒナセ基地 係留岸が見える岸壁 ヒナセと電
ヒナセが岸壁の小高いところ、地べたに座り込んで、海を見ている。
あの……し、司令官さん……。
(振り返って)……どうしたの? 電《デン》
あの……ご……ごめんなさい……なの、です。
ん?
……その……あの……えと……
………。
……ふ……み……
ああ、文月ちゃんのこと?
はい、なのです。
あの……いなづまが……いなづまが……文月ちゃんのこと……
ああ、そうじゃないよ。……おいで、デン。
(おずおずとヒナセに近づく)
(電の手を取って、その顔を見上げ)君のせいじゃないから。
………。
……ゴメン。ちゃんと説明しなきゃいけなかったね。
説明……なのですか?
そう、説明。
君は首席秘書艦だからね、ちゃんと言っておかないといけなかった。
ほんとうに、ゴメン。
………。
座って(自分の前を指さす)
(指さされたところにちょこんと座る)
風が、さぁ…っと2人の間を吹き抜ける。
……ああ、いい風だね……。
……デン。
はい、なのです。
うん。実はさ、あっちの山の向こうにも、こんなところがあってね。
そこも、いい風が吹くんです。
そう、なのですか?
うん……。
私、この島の出身って、以前言ったよね。島に来てすぐくらいの頃。
台風が来た夜、だったのです。
うん、よく憶えてるね。
子供の頃ね、そのすぐ近くに、私の家の畑があってね。
疲れたら、こうたやって同じように座ってさ、海を見るの。反対側の海(微笑む)
……景色は微妙に違うんだけど、でもほぼ一緒の光景だなーって、今見てました。
はい、なのです。
……でね。
疲れたときって言っても、たくさん働いて体が疲れた時だけじゃなくて、いろんなことを考えすぎて、頭とか気持ちが疲れちゃった時もね、よくそこに座ったり、寝転んだしてたの。
………。
今もね、それだったんです。
お疲れなのですか?
うん、そう。
自分が不甲斐ないって言うのかな。……ま、私は軍人だからね。上からの命令には従わないといけない。決定されたことに異を唱えることは、できないんだよ。
……頭、撫でていい?
はい、なのです。
(撫でる)
あの……
ん?
し、司令か…ヒ、ヒナコさん……だったら、いいのです。
……ん?
いなづまに訊かなくて、いいのです。
ヒナコさんだったら、大丈夫、なのです。
ヒナコさんは、い……痛いこと、しないのです。だから……
……そっか。
はいなのです。
そっか……。……いなづま……
はい、な…の……
ゴメンね……文月ちゃんと、ちゃんと仲直りしようとしてたのに………私に発言権がないばかりに、その機会を、君と文月ちゃんから奪ってしまった……。
本当に、ゴメン……。
ヒナコさん……。
今回の件で自分の立ち位置を思い知ったよ。
ヒロミさん……アサカ提督にまだまだおんぶに抱っこだった。どっちが年上かこれじゃ分かんないなって、つくづく思った。
正直、今回みたいな気分はもう二度と味わいたくない。でもさ、しばらくはできない相談なんだろうね。
(大きな目を見開いて、真剣にヒナセを見つめている)
……この基地の主任務は知ってるよね。
はいなのです。
艦娘さんたちを修理してゆっくりお休みしてもらうのです。
うん。
基本的には、艦政部から送られてくるワケありの艦娘たちを、ここで修復・回復療養させることだね。
艦政部から預かる子たちって、艤装や体が壊れてるわけじゃないのも知ってるよね。
はいなのです。
いなづまみたいな子が多いのです。
(電の頭を撫でる)……そうだね。
でもね、それ以外にドロップ艦を見つけた場合にも、状態によっては修復と回復療養をしなくちゃいけない。これも知ってるね。
はい。文月ちゃんは、いなづまが司令官さんとここに来て、初めて見つけた子なのです。
見つけたとき、すごく壊れていたのです。お亡くなりになってるかと思ったのです。
うん、そうだね。あれは酷かった。
……私はね、回収した艦は、そのまま私の手元にずっと置けると思っていたんだよ。まったくの勘違いだったのだけど。
……だからなのですか?
ん?
ヒナコさん、ほかの艦娘さんたちよりも、文月ちゃんに親切だったのです。
親切……ああ、親身ってことかな。
……?
親切……とは違うけど、まぁ似たような感じかな。
自分の艦になると思ってたから、ほかの子たちよりもほんの少し気にかけていたのは事実だね。
えと……だから、その……いなづまは、勘違いをしたのです。
ヒナコさん、いなづまよりも文月ちゃんのほうが大切になったと思ったのです。
……前も……前の……司令官さん……の、とき……
それについては、デンは何も悪くないからね。
勘違いをさせた私がいちばん悪い。ちゃんと事情を話しておけばよかったんだ。
あとさ、年頃が近いから、デンと文月ちゃん、いいお友達になれるかなって、思ってた。
……お友達って、変か。……なんて言ったらいいかなぁ……。
とにかく、この基地で一緒にずっといれたら、デンはもっと楽しくなれるかなって、そう思ったの。……私、ほら、小母さんだからさ。四十(しじゅう)近いしさ。
おともだち……?
君、暁たちと一緒にいたことあるって言ってたよね。
はいなのです。
暁ちゃんと響ちゃんがいたのです。
そっか。
お姉さんたちと一緒って、楽しくなかった?
……よく、憶えてないのです……。でも、ちょっとだけここがポカポカするのです。
うん……じゃ、悪い関係ではなかったってことだね。
文月ちゃんと、そういう関係になれたらいいなって、思ってたんです。……今さら言っても遅いんだけどね。
……そうだった……の、ですか……。
うん。
……艦政部から預かる子たちは、いつかここを出て行く子だからさ、どうしても一線引いて接しないとって思ってるの。だって、ここから出て行けば、いずれ戦闘に駆り出されるわけで。もちろんそうじゃない子もいるんだろうけど、でも、その可能性はかなり低いかな。だからね、ここであまりにも私と密に接しちゃってると、いくら初期化されると言え、影響がないとは言いきれないからさ。
なのですか……。
なのです。
だから、ほかの子たちと一緒に文月ちゃんも本部に引き渡せって命令が来た時、びっくりしちゃってさ。
抗議をしたけど、相手はあのヒロミさんでしょ? 何言っても無駄だったし、それ以前に、彼女を連れて行っちゃいけなかったんだ。
だってさ、ヒロミさんにもどうしようもないことってあるんだよ。私はそれを、忘れてた。
あっという間もなかった。連れて行かれちゃったら最後、会うこともできない。
……それを痛感して帰ってきました。
帰りの道中、戻って君になんて言おうか、そればかり考えていました。
……あの……。
うん。
いなづまは、ヒナコさんが文月ちゃんを連れて行ってしまったこと、ちょっとだけホッとしたのです。いなづまは、いけないことを考えたのです。
誤解したからしょうがないよ。そもそも私がいけなかったんだし。
……そっか……お互いに、知らないことだらけだね。これでは誤解が誤解を呼んで、いつ決定的に壊れるかわかんないなぁ。
………。
うん……もっと、いろいろ話をしないといけないようだね。
もちろん、言うのが辛いこととか、言いたくないことまで言わなくてもいいよ。
昔のことなんて、もう終わっちゃったことだしさ。
でも、黙ってお腹に溜めておくのが辛いなら、そしてそれを話しちゃったほうが自分が楽になれるかもと思ったら、それは遠慮せずにお互い話をしたほうが良いのかも。
みーんな本部に戻しちゃって、またしばらく二人っきりだし。
はい……なのです。
私はね、デン。
君は私の秘書艦だけれども、大事な家族だとも思ってる。君だけはぜったいに余所にやらないって決めてるの。
いい機会だから正直に話をするけど、実はね、少将に昇格する際に私に課せられた最初の任務は、君を初期化できる程度に回復させることだったの。今もその任務は生きていて、ことあるごとに艦政部から詳細なレポートを出すように言われてる。
私が定期的に本部に行かなきゃいけないのは、この任務が、艦政本部にとっては秘密にしておきたいことのひとつで、電信でレポートを送ると、故意じゃなくても傍受されて、よそにバレちゃうかもしれないからなんだよ。
……でもね、私としては、君が初期化できるくらいまでに回復できたとしても、さらに初期化して何もかも忘れてしまっても、私の艦でいてほしいんだ。
ぶっちゃけ、許可が出て、君が良ければ、私の専任艦にしたいなって思ってるの。
ヒナコさん……。
それに、この先、ほかにもさ、大事になる艦娘や艦(ふね)が、出てくるだろうって思ってる。自分にとって必要な艦。基地にとって必要な艦。ここを必要としている艦たち。そんな子たちと、できたらここでずっと暮らしていきたい。
そんな子たちを、今回みたいに無理矢理もぎ取られることがないよう、私は力を付けていかないといけないなって思いました。
………。
じゃないと、このまま今の地位に甘えてたらさ、君すらも守れないってことが起こるかもしれない。
……今回のことは、正直、手加減なしに「ぐー」で頭を叩(はた)かれたって感じの衝撃だったもの。
ヒナ……司令官さん……。
はい。
い、いなづまのお話も、聞いてくれますか?
はい。
あの……いなづまは、前の司令官さんのことが、す……好きだったの、です。
うん。
前の司令官さんの、最初の秘書艦だったのです。ずっと大事にして下さったのです。
でも、いなづまよりも大事な艦娘さんができて……いなづまに、会いに来てくれなくなったのです。秘書艦のお仕事もなくなったのです。
でも……ときどき……来て……来て……
いいよ、いなづま。
……だから辛かったんだね。文月ちゃんとケンカしちゃうくらいに。
ごめんなさい、なのです。
いなづまは、悪い子なのです。
前の司令官さんにも言われたのです。
いいや、君は何も悪くない。文月ちゃんとの件も、前の司令官との件も。
どちらも悪いのは私たち人間だ。君らにも心はあるのに。
いなづま。
はい、なのです。
すぐには難しいかもしれないけど、私に対してイヤだなぁって思うことがあったら、すぐに言って下さい。その代わり、私も君にちゃんと伝えるから。
……で、専任艦の件、考えておいて。やはり、私には君が必要です。
私は士官学校を出たってだけで、提督としてのキャリアがほぼないから、君に補佐をしてもらわないと、この先、艦隊指揮官と基地司令官を続けていくのは、難しいと思う。
はい……なのです。
えと……せ、専任艦は、大丈夫なのです。いなづまも、ヒナコさんの専任艦になれたら嬉しいのです。
うん。わかった。
じゃ、本部のアサカ提督に申請しておきます。いつ許可が出るかは分からないけどね。
あ、あと……ですね。
いなづま、ヒナコさんのお話を聞いて、思ったことがあるのです。
はい、なんでしょう?
あの……本部からくる艦娘さんや、海で見つけた艦娘さんたちですね、ヒナコさん、いなづまと同じように、接していいって、思ったのです。
いなづまは、もう大丈夫なのです。文月ちゃんとのことみたいには、もうならないのです。
デン……。
いなづまは、ヒナコさんからとても親切に、してもらっているのです。知らないこともたくさん、教えてくれたのです。お花やお野菜が種から大きくなるとか、大きくするためにはほかの草をどけてやらないといけないとか、トマトは水をやりすぎたら甘くないとか、おナスは水たくさんあげないと固くなるとか……でもトマトもおナスも同じお仲間だとか……。
そういう知らないことをたくさん知って、ここでお野菜作って……海は、まだ怖くて近寄れないのです、でも、そんないなづまにもできるお仕事があるって、それがすごく嬉しいって、いつもそう思っているのです。だから、ここに来る艦娘さんたちも、そうたったらいいなって……思うの、です(肩で息をする)
……そっか。そう、だね(電の頭を撫でる)
確かに、はじめからそうしておけば、君が誤解することもなかったのかも、しれないね。
そっかそっか……。
(ゼイゼイと過呼吸気味)
うん。そうだね(電を抱きかかえて自分の膝に乗せる)
君の言うとおり。たぶん、私は間違っていたんだ。
自分ができることなんて、ほんの少ししかないのに、自分に一番合ってるやり方をドブに捨てて、何をしようと思ったんだろうね。
ありがとう、電。
……はい、なのです。
じゃ、また一からやり直しだ。
ちょうどいい、また二人ではじめよう?
電、手伝って下さい。
はいなのです。
いなづまも、これからまたよろしくなのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○本部・鹿屋基地 アサカ提督の執務室。
……というわけで、こちらの件、よろしくお願いします。
(差し出された書類を見て)
いいわよ、どうせ帰りも『明石』でしょ。明石にぜんぶ委任しておくから、島に戻ったらすぐに認証しちゃいなさい。
……は?
なに?
いえ、こんなに簡単でいいのかなと。
私は、もっと早くに申請を言ってくるかと思っていたけれど?
はぁ……でも、ウチの電は、ほら、ワケありじゃないですか。(小声で)初期化もしてませんし。
(声を元に戻して)なので、専任艦にするのは難しいのかなって思ってたんですけど。
そうね、艤装が装着できない時点で、専任艦認証ができるのかどうかは疑問ね。
たぶん初めての試みになるでしょうねぇ。
いい機会だから、試してみましょう。
はぁ……?
いい記録が取れるといいわね。
そのあたりも明石に指示しておくわね。
ひどい……。
今さらでしょ?
……この記録、“あちら”には上げませんから。
左様で。
……ところで、お父上はお元気です?
(じろり、と睨み)……元気みたいよ。それが何?
いいえ。……いや、前回、修復途中の艦まで根こそぎ持って行かれましたからね。“あっち”はさぞかしお忙しいことかなと思いまして。
……あそこと似たような施設を、呉に作ろうとしているのよ。
わー…。
(聞きたくないこと聞いちゃった…)
……で、その一端として、修復途中の艦娘の状態を調べたかったみたいね。
もしかしたらだけど、何隻かまた、そっちに戻すかもしれないわ。
……ち……(不快感を隠そうともしない顔)
その点については、謝罪するわ。
もっと私に、上に通用する権限があれば、みすみす全員引き渡すなんてことはさせなかったわ。もっと、もっと力を付けないとダメね。
………。
なに?
いえ、私と同じようなことを考えていらっしゃったのかぁと、思いまして。
そう。
はは……。
とにかく、うまく認証できれば、この先の基地運用も方向が変わるでしょう。
何事も、『最初に』とか『試してみる』は必ずあることだから。それがあなたたちであってもおかしくはないわね。
ま、そのとおりですね。
良い方向に転ぶといいわね。
……ええ、そうですねぇ。
ヒナセ提督(手招きする)
は?(近づく)
(ヒナセの耳元に口を寄せて)……もっと上手く立ち回りなさい。
いちいち全部、報告してこなくていいのよ。
(離れて、デスクの引き出しを開ける)……はい、これ(ヒナセの手に何かを乗せる)
………(手に乗せられたのは、小さな袋に入ったちっちゃいヒトクチ板チョコ)
あら、足りない?(デスクの引き出しに手を突っ込んで、さらに三つほど出して、ヒナセの手に乗せる)
……ありがとうございます……。
相変わらず、甘いモノがお好きですね。
デスクワークばかりしていると、頭も疲れてくるし、なによりお腹が空くのよ。
なにせ、腕のいいデスクワーカーが出世していなくなっちゃったから。
誰にでも任せられないから、私の仕事が増えたわ(しれっと書類を出して、見始める)
はは……それは大変申し訳ありません。
なんでしたら、手伝いますよ? 出航は明日ですし。
そう、じゃ、お願いしようかしら?
了解しました。
では、ミニデスクをお借りします。
明石に持ってこさせるわ。それまで、そこの椅子を使ってちょうだい。
は、ありがとうございます。
部屋の隅に置いてある、折りたたみの椅子を出してきて、アサカのデスク横に持ってくる。
すでにそこに、処理して欲しい書類が数部置いてある。
それを見たヒナセは苦笑して、椅子に座り、書類を手に取って読み始め……。
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