へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

母鳥の詩

母鳥の詩 本文

とある鎮守府の航空訓練隊での出来事……。
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お呼びでしょうか、提督。
ああ、鳳翔。足労をかけるな。
……お前だけには先に言っておこうと思ってね。
なんでしょうか?
半年ほど向こうの話だが、儂もそろそろ引退をと考えておってな。
まだ、定年にはお早いのでは?
……後進に席を譲りたいと思ってね。
定年よりも少し早く退官すれば、退職金も満額もらえる……と笑いたいところだが、一昨年の事故がどうにも身に堪えてな。
毎年大なり小なり事故はあるが、あれがどうにも頭にこびりついて、ときどき眠れなくなる。
……儂も歳を取ったなと……。
……提督がそうお決めになったのでしたら……。
うむ、すまんな。
そんなわけで、今の最上級生たちと、一緒に“卒業”することにするよ。
承知致しました。
……でだ。お前の次のことを、考えておかねばと思ってな。
それで、早めにお前に言っておこうと考えた。
………。
お前は長年、儂によく仕えてくれた。学生たちの面倒もよく見てくれた。感謝している。
戦歴艦というわけではないが、お前の功績はそれに匹敵するに余りある。
……で、お前の長年の働きに報いたいと思ってな。艦政部に相談したところ、お前の希望をできるだけ叶える方向で考慮する……と回答があった。
どうだ? どこか行きたいところはあるかね? もちろん、このままここに残ることも可能だよ。
……提督……。
返答は急がない。儂の“卒業”もまだ半年以上先の話だ。
少し考えてからでもいいから、決めたら言いなさい。
……正直な話、学生の事故は辛いな……(遠く空を見やる)
……提督……その、事故に遭った学生さんですが……彼女は……
結局ここに戻ってこずじまいだったからな。
気になっとるだろうと思って、どうなったか調べておいた。
あの学生は今期から、士官学校に編入したそうだ。
そう……ですか。
リハビリに1年以上かかったようだが、なんとか先が繋がったようで、肩の荷が下りた気分だよ。
はい。そうですね。
……提督。
なんだね?
提督がご退官なさるのでしたら、私もこちらを“卒業”して、海域任務に就きたいと存じます。
いいのかね?
はい。……あの事故については、私も悔いが残っております。それを償うというわけではありませんが、学生を守れなかった以上、訓練艦を勤めるには、力不足かと。
……本当にそれが理由かね?
………(視線を落とす)
ふむ……。
(微笑んで)お前はお前の信じる道を進みなさい。
だが、お前の選んだ道は、困難しかないかもしれんよ。それでもいいかね?
はい。
ここで待つという手もあるというのに、お前は追いかけて行くわけだ。
………。
まぁよかろう。だが、お前の叶うかもしれないその希望には、まだしばらく時間が必要だ。
その間の便宜はできるだけ計ろう。なに、これくらいは儂にもできる。
我が儘を言って、申し訳ありません。
この二十年、お前はほとんど我が儘を言わない艦《ふね》だったからな。このくらいは聞いてもバチは当たらんさ。
ありがとうございます……。
まだ泣くのは早い。その涙は、儂が“卒業”するときまで取っておいてくれ。
……はい……提督……。
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……え? それは本当ですか?
ええ、記録はそうなっています。
大尉がお尋ねの『鳳翔』は、「●●年▲月沈没。■月除籍」……記録、ご覧になりますか?
……か……可能なら、写しを……。
わかりました。じゃ、この書類に必要事項のご記入をお願いします。
………(書類を書いて、相手に渡す)
(出された書類を見てうなずき)ではしばらくお待ち下さい。
(いちばん近いベンチに座り、両の拳を膝の上でぎゅっと握り締めて、床に視線を落とすのは、20代後半のヒナセ)……鳳翔《おかあ》さん……。
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