風よ、吹け ―ヒナセ基地定期報告書―
序文~1.一艦提督
口上
風は——
どこから来て、どこに去るのだろう。
どこから来て、どこに去るのだろう。
子供のころ家業の手伝いをしながら、ときおり顔を撫でていく風を感じるたびに空を見上げ、そう思っていた。
——風の始まるところはどこなんだろう。
——風の終わるときはいつなんだろう。
——風の終わるときはいつなんだろう。
積もった思いは空へと向かい。
心だけでなく自分自身の体もと願う。
鳥のように翼を羽ばたかせ、空に駆け上がり、駆けめぐることができたら。
心だけでなく自分自身の体もと願う。
鳥のように翼を羽ばたかせ、空に駆け上がり、駆けめぐることができたら。
だから軍に入った。いちばん手っ取り早い方法だった。
翼を手に入れ、願いは叶う——はずだった。
世の中なかなか、ままならない。
翼を手に入れ、願いは叶う——はずだった。
世の中なかなか、ままならない。
私は今、海の上にいる。
海の上で風の始まりと終わりを探している。
海の上で風の始まりと終わりを探している。
タイトル
『風よ、吹け ―ヒナセ基地定期報告書―』1.一艦提督
はたと目を開けると、まず飛び込んできたのは空と雲だった。
いわゆる“ピーカンの空”に“まっ白い雲”。
ぷっかぷっかといくつも浮いている雲が、ハンドローラーでぺーったりと塗りたくったような青空に、はっきりとしたアクセントをつけていた。
(ああ……)
海軍少将・日生日向子《ヒナセヒナコ》は自分の腕と足と背中と後頭部に硬いものを感じた。
(マズい。うっかり居眠ってた……)
自分にぶつかってそのまま通り過ぎていく風の強さと、やや不規則な上下運動に、自分が今いるところを思い出す。
(甲板でなんて、サイテー)
それもご丁寧に、走っている軍艦の上。
この艦に人間は自分だけだからといって、気がゆるみすぎてる。
艦《ふね》の甲板で居眠りをすることのなにがマズいのか?
うっかり大波を受けて大きく傾いだときに、対処のすべなく転がって、海に落ちるかもしれないから?
あるいは、海に落ちなくても、船体のどこかに体をしたたか打ち付けて、場合によっては骨折ではすまなくなるから?
否。どれも違う。
天気の良すぎる日の海上の日差しは、ナカナカ素敵に激烈なのである。
これを長時間モロに浴び続けると、下手すりゃ陽が当たったところだけ皮膚が真っ赤に腫れ上がる。日焼けをとおりこして火傷のような症状を起こし、火膨れができたりする。場合によっては死ぬことだってある。そこまでひどくなくても、体中が痛くて寝られないとか風呂に入れないとか、それはもういろいろ困る。実に困る。
特にこの時期この海域の日差しは、冗談ですまされないほどに容赦がない。だから、さらに要注意なのに。まったく、自分ときたら——。
ご丁寧にも、上は半袖のクルーTシャツしか着てないし、さらに袖は肩まで折り上げてるときたもんだ。せめて上着を羽織るだけでもしておけばよかった。
ヒナセは目を開けた時の姿勢のままぼうっと考えた。意識が飛ぶ直前まではこんなに晴れてはいなかったし、日差しもこんなに熱くはなかったとはいったものの……
(一体どれだけの時間、ここで転がっていたんだろう)
現在時刻を確かめるべく、腕時計を見ようと左手を上げてみたが、そこには普段あるはずのモノが存在していず、何も付けていない、日に焼けた手首だけが見えた。
「……部屋、か……」
小さく呟く。運が悪い日はそんなものだ。何をやっても今ひとつ冴えない。
ヒナセは上げた腕を甲板にぱたりと落とした。
「お目覚め、なのですか?」
やや離れたところから声をかけられた。やや舌足らずに聞こえる幼い声。
ヒナセはよっこらせと起き上がって、ずり下がった眼鏡を左手でいつもの位置に戻すと、声のしたほうに顔を向けた。そこには、セーラー服を着た小学生のようにも見える女の子が座っていた。
女の子は自分の背中から尻、投げ出した両足をまでも艦《ふね》にぴったりとくっつけて、ヒナセをじっと見つめている。その雰囲気はいかにも所在なさげで、おびえた子犬のようだ。
「ゴメン、うっかり眠っちゃってたね」
女の子に声をかけながら、ヒナセは起き上がる。起き上がったはずみで自分の体から落ちた布の存在に気がついた。甲板に落ちた布はパサリと乾いた音を立てた。思わず布を見る。
彼女がかけてくれたのか、とヒナセは思った。そしてそれをするために彼女が受けただろうストレスの大きさを推し量って、自分の失態の大きさに臍《ほぞ》を噛んだ。しかし顔にはそれを出さず、布を手にゆっくりと立ち上がる。そしてことのほかゆったりと足を運んで、少女に近づいていった。
「これ、ありがとう」
言いながら少女の横に腰をおろして胡座を組む。少女は黙って、近づいてくるヒナセの顔をじっと見つめていたが、ヒナセが自分の横に座ると、普段からあまり開かない口を、さらに小さく引き結んでふるふると首を横に振った。
「司令官さんに、それをかけて下さったのは、明石さんなのです。いなづまは、ここまでしか、来れなかったのです」
消え入りそうな声で少女は言う。ヒナセはゆっくり手を伸ばして、少女の頭にそっと乗せ、やさしく撫でた。
「でも、デンがここまで持ってきてくれたんでしょ?」
布は、この艦でヒナセとこの子が使っている寝室のベッドカバーだ。オフィス代わり使っている隣の小部屋ならいざ知らず、寝室はヒナセとこの子しか入室しないし、できない。だから、このベッドカバーを持ち出せるのは、この子しかいないのだ。
ヒナセが日焼けしすぎないよう寝室からベッドカバーを持ち出して、甲板に出たまでは良かったが、身がすくんで動けなくなってしまったのだろう。それに気がついた明石が布を預かり、寝転けているヒナセにかけてやったというのが真相というところか。
自分の想像はたぶんほぼ間違っていないだろう。詳細はともかく、大筋からはそれほど逸れてないはずだ。
ヒナセはそう思いながら、微笑んで少女を見た。少女もヒナセをやや上目遣いに見ていたが、やがて小さくコクン、とうなずいた。
「ありがとう。さすが私の秘書艦だね」
そう、目の前にいるのは、形《なり》は小さな少女だが、これでも艦《ふね》だ。『電《いなづま》』の名を冠するれっきとした駆逐艦。ただ、事情があって、今は艦としては機能していない。
ヒナセは笑って電を抱え上げ、よいしょ、と彼女を自分の胡座の上に乗せた。ずっと緊張していたのだろう、本来ならしなやかなはずの電の体は、ガチガチに固まって、まるで石の板を持ち上げているような感触だった。ずり落ちないように後ろからしっかりと抱きかかえてやる。ほどなくして電の体から力が抜けた。
電がそっとヒナセの腕に自分の腕をからめてきて、ヒナセの体に自身の体重を預けてきた。ヒナセの腹から胸に、電の背中がぴったりとくっつきあう。ヒナセはそっと電の頭に自分の鼻をうずめた。
少女の髪から潮をふくんだお日さまの匂いがたっぷりとして、このちいさな駆逐艦がこの場所にいた時間の長さを物語っていた。
司令官——
秘書艦——
(——他には誰もいないのにね)
ヒナセは自分たちが発した言葉の空虚さを思わずにはいられない。
太陽はそろそろ西に傾きつつあって、風もほんの少しだけだが冷気をはらみはじめていた。風が耳の横でびょおびょおと鳴り響いている。
「寒くない?」
電の耳元で、ヒナセは囁いた。電が小さく身じろいだ。
「はい。背中があったかいのです」
電がくすぐったそうに笑った。
「司令官さんは、お寒くないですか?」
「うん。大丈夫。お腹があったかい」
「なのですか?」
「なのです」
言ったとおり、抱きかかえた電の体温が、服越しに伝わってきてじわりとあたたかい。伝わるあたたかさに、小さくはあるけれども、ずっしりとした希望のようものを感じる気がする。
ヒナセはうなずいて、電の頭をくしゃりとなでた。
二人の乗った艦は、進むにつれ、冷気が増す大気を左右に切り開きながら、進路を太陽の沈むほうに変えつつあった。
(うん、大丈夫……)
根拠は一切ないが、そう確信した。
艦《ふね》の進む先には自分とこの子がこれから赴任する場所がある。
前々大戦後に遺棄された、小さな後方基地のあったとされてる無人の島。
ヒナセが基地司令を拝命し、やっとのことで向かっている赴任先。
そして……
いわゆる“ピーカンの空”に“まっ白い雲”。
ぷっかぷっかといくつも浮いている雲が、ハンドローラーでぺーったりと塗りたくったような青空に、はっきりとしたアクセントをつけていた。
(ああ……)
海軍少将・日生日向子《ヒナセヒナコ》は自分の腕と足と背中と後頭部に硬いものを感じた。
(マズい。うっかり居眠ってた……)
自分にぶつかってそのまま通り過ぎていく風の強さと、やや不規則な上下運動に、自分が今いるところを思い出す。
(甲板でなんて、サイテー)
それもご丁寧に、走っている軍艦の上。
この艦に人間は自分だけだからといって、気がゆるみすぎてる。
艦《ふね》の甲板で居眠りをすることのなにがマズいのか?
うっかり大波を受けて大きく傾いだときに、対処のすべなく転がって、海に落ちるかもしれないから?
あるいは、海に落ちなくても、船体のどこかに体をしたたか打ち付けて、場合によっては骨折ではすまなくなるから?
否。どれも違う。
天気の良すぎる日の海上の日差しは、ナカナカ素敵に激烈なのである。
これを長時間モロに浴び続けると、下手すりゃ陽が当たったところだけ皮膚が真っ赤に腫れ上がる。日焼けをとおりこして火傷のような症状を起こし、火膨れができたりする。場合によっては死ぬことだってある。そこまでひどくなくても、体中が痛くて寝られないとか風呂に入れないとか、それはもういろいろ困る。実に困る。
特にこの時期この海域の日差しは、冗談ですまされないほどに容赦がない。だから、さらに要注意なのに。まったく、自分ときたら——。
ご丁寧にも、上は半袖のクルーTシャツしか着てないし、さらに袖は肩まで折り上げてるときたもんだ。せめて上着を羽織るだけでもしておけばよかった。
ヒナセは目を開けた時の姿勢のままぼうっと考えた。意識が飛ぶ直前まではこんなに晴れてはいなかったし、日差しもこんなに熱くはなかったとはいったものの……
(一体どれだけの時間、ここで転がっていたんだろう)
現在時刻を確かめるべく、腕時計を見ようと左手を上げてみたが、そこには普段あるはずのモノが存在していず、何も付けていない、日に焼けた手首だけが見えた。
「……部屋、か……」
小さく呟く。運が悪い日はそんなものだ。何をやっても今ひとつ冴えない。
ヒナセは上げた腕を甲板にぱたりと落とした。
「お目覚め、なのですか?」
やや離れたところから声をかけられた。やや舌足らずに聞こえる幼い声。
ヒナセはよっこらせと起き上がって、ずり下がった眼鏡を左手でいつもの位置に戻すと、声のしたほうに顔を向けた。そこには、セーラー服を着た小学生のようにも見える女の子が座っていた。
女の子は自分の背中から尻、投げ出した両足をまでも艦《ふね》にぴったりとくっつけて、ヒナセをじっと見つめている。その雰囲気はいかにも所在なさげで、おびえた子犬のようだ。
「ゴメン、うっかり眠っちゃってたね」
女の子に声をかけながら、ヒナセは起き上がる。起き上がったはずみで自分の体から落ちた布の存在に気がついた。甲板に落ちた布はパサリと乾いた音を立てた。思わず布を見る。
彼女がかけてくれたのか、とヒナセは思った。そしてそれをするために彼女が受けただろうストレスの大きさを推し量って、自分の失態の大きさに臍《ほぞ》を噛んだ。しかし顔にはそれを出さず、布を手にゆっくりと立ち上がる。そしてことのほかゆったりと足を運んで、少女に近づいていった。
「これ、ありがとう」
言いながら少女の横に腰をおろして胡座を組む。少女は黙って、近づいてくるヒナセの顔をじっと見つめていたが、ヒナセが自分の横に座ると、普段からあまり開かない口を、さらに小さく引き結んでふるふると首を横に振った。
「司令官さんに、それをかけて下さったのは、明石さんなのです。いなづまは、ここまでしか、来れなかったのです」
消え入りそうな声で少女は言う。ヒナセはゆっくり手を伸ばして、少女の頭にそっと乗せ、やさしく撫でた。
「でも、デンがここまで持ってきてくれたんでしょ?」
布は、この艦でヒナセとこの子が使っている寝室のベッドカバーだ。オフィス代わり使っている隣の小部屋ならいざ知らず、寝室はヒナセとこの子しか入室しないし、できない。だから、このベッドカバーを持ち出せるのは、この子しかいないのだ。
ヒナセが日焼けしすぎないよう寝室からベッドカバーを持ち出して、甲板に出たまでは良かったが、身がすくんで動けなくなってしまったのだろう。それに気がついた明石が布を預かり、寝転けているヒナセにかけてやったというのが真相というところか。
自分の想像はたぶんほぼ間違っていないだろう。詳細はともかく、大筋からはそれほど逸れてないはずだ。
ヒナセはそう思いながら、微笑んで少女を見た。少女もヒナセをやや上目遣いに見ていたが、やがて小さくコクン、とうなずいた。
「ありがとう。さすが私の秘書艦だね」
そう、目の前にいるのは、形《なり》は小さな少女だが、これでも艦《ふね》だ。『電《いなづま》』の名を冠するれっきとした駆逐艦。ただ、事情があって、今は艦としては機能していない。
ヒナセは笑って電を抱え上げ、よいしょ、と彼女を自分の胡座の上に乗せた。ずっと緊張していたのだろう、本来ならしなやかなはずの電の体は、ガチガチに固まって、まるで石の板を持ち上げているような感触だった。ずり落ちないように後ろからしっかりと抱きかかえてやる。ほどなくして電の体から力が抜けた。
電がそっとヒナセの腕に自分の腕をからめてきて、ヒナセの体に自身の体重を預けてきた。ヒナセの腹から胸に、電の背中がぴったりとくっつきあう。ヒナセはそっと電の頭に自分の鼻をうずめた。
少女の髪から潮をふくんだお日さまの匂いがたっぷりとして、このちいさな駆逐艦がこの場所にいた時間の長さを物語っていた。
司令官——
秘書艦——
(——他には誰もいないのにね)
ヒナセは自分たちが発した言葉の空虚さを思わずにはいられない。
太陽はそろそろ西に傾きつつあって、風もほんの少しだけだが冷気をはらみはじめていた。風が耳の横でびょおびょおと鳴り響いている。
「寒くない?」
電の耳元で、ヒナセは囁いた。電が小さく身じろいだ。
「はい。背中があったかいのです」
電がくすぐったそうに笑った。
「司令官さんは、お寒くないですか?」
「うん。大丈夫。お腹があったかい」
「なのですか?」
「なのです」
言ったとおり、抱きかかえた電の体温が、服越しに伝わってきてじわりとあたたかい。伝わるあたたかさに、小さくはあるけれども、ずっしりとした希望のようものを感じる気がする。
ヒナセはうなずいて、電の頭をくしゃりとなでた。
二人の乗った艦は、進むにつれ、冷気が増す大気を左右に切り開きながら、進路を太陽の沈むほうに変えつつあった。
(うん、大丈夫……)
根拠は一切ないが、そう確信した。
艦《ふね》の進む先には自分とこの子がこれから赴任する場所がある。
前々大戦後に遺棄された、小さな後方基地のあったとされてる無人の島。
ヒナセが基地司令を拝命し、やっとのことで向かっている赴任先。
そして……
現状どのような状態なのかはっきりしていないが、何もないということだけは分かっている。そんなところの責任者をやれと言われたということは、『一からすべて作れ』『好きにしていい』と言われたも同然だろう。
(都合のいいように解釈するのは、まぁ、得意ですから)
上司に向かってたたいた減らず口を心の中でくり返す。
それに対して上司は苦笑でもって応えたのだったか。
それとは別に、ヒナセはいずれあの島には行く必要があった。だからこれは、上司と自分、双方の利害が一致……いや、上司がそれをお膳立てしたのかもしれない。なにせ食えない女性《ひと》だから。
『あとはアナタに任せたわ。ま、のんびりおやりなさい、ヒナセ《提督》』
突き放すようにそう言って自分を送り出した上司・浅香広海《アサカヒロミ》中将の顔をふと思い出して、ヒナセはフッと軽く息を吐いた。
(——提督、ねぇ……)
新設基地の責任者兼艦隊司令を拝命して以来、このセリフを何度心の中でつぶやいただろう。
部下となる人間はひとりとしていず、手元にあるのは秘書艦一隻のみ。戦隊長どころか艦長と呼ばれてもおかしくはない。しかし、艦娘を持つ身になった瞬間から“提督”と呼ばれる身分になる。
『新設の艦隊司令を拝命する時は、誰しも駆逐艦ひとりから始まる』
というのは、ほぼ形骸化されている思っていたが、どうやらこっそり生きていたらしい。(だからといって、何も自分に降りかかることないじゃない)
ヒナセは、提督になってから今日まで、何度も同じこと思った。思うたびに別のことも考えるようにしている。
(まぁいいさ。いつかはあそこに帰らないといけなかったんだから)
つまりこれは《自分にとって都合のいい》人事と任地なのだ。
まずはあの“島”へ渡ること。
それが先決。
(都合のいいように解釈するのは、まぁ、得意ですから)
上司に向かってたたいた減らず口を心の中でくり返す。
それに対して上司は苦笑でもって応えたのだったか。
それとは別に、ヒナセはいずれあの島には行く必要があった。だからこれは、上司と自分、双方の利害が一致……いや、上司がそれをお膳立てしたのかもしれない。なにせ食えない女性《ひと》だから。
『あとはアナタに任せたわ。ま、のんびりおやりなさい、ヒナセ《提督》』
突き放すようにそう言って自分を送り出した上司・浅香広海《アサカヒロミ》中将の顔をふと思い出して、ヒナセはフッと軽く息を吐いた。
(——提督、ねぇ……)
新設基地の責任者兼艦隊司令を拝命して以来、このセリフを何度心の中でつぶやいただろう。
部下となる人間はひとりとしていず、手元にあるのは秘書艦一隻のみ。戦隊長どころか艦長と呼ばれてもおかしくはない。しかし、艦娘を持つ身になった瞬間から“提督”と呼ばれる身分になる。
『新設の艦隊司令を拝命する時は、誰しも駆逐艦ひとりから始まる』
というのは、ほぼ形骸化されている思っていたが、どうやらこっそり生きていたらしい。(だからといって、何も自分に降りかかることないじゃない)
ヒナセは、提督になってから今日まで、何度も同じこと思った。思うたびに別のことも考えるようにしている。
(まぁいいさ。いつかはあそこに帰らないといけなかったんだから)
つまりこれは《自分にとって都合のいい》人事と任地なのだ。
まずはあの“島”へ渡ること。
それが先決。
艦が作る風の中、ヒナセは艦の進行方向に落ちていく太陽と、それに伴って朱から藍へと移行していく空を、腕の中に抱えた小さな秘書艦のあたたかさを感じながら、じっと見つめ続けた。
いつもそうだった。
否が応でも明日は来る。
その先には未来がある。
帆を張り、足を出し、前へと進むのだ。
そこにきっと、風の生まれる場所がある。
否が応でも明日は来る。
その先には未来がある。
帆を張り、足を出し、前へと進むのだ。
そこにきっと、風の生まれる場所がある。
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