オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 時間外

再発。

再発。 本文

佐和子センセの診察室にて。
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単刀直入に言うわね。
てことは再発したんだ。
……ま、そいうことね。
そっか。
予想はしてたけど、他人事のように返事するわねぇ。
泣きわめいてもね、こればかりはねぇ……。
そらそうね。
……柳原には言わないで欲しい……つっても無駄か。
無駄ね。今言わなくても、いずれは言わなくちゃいけない時がくるからね。
だよねー。
それに。
それに?
お嬢は敵に回したくないのよ。
みんな柳原には甘いよねぇ。
甘いんじゃないわ。……怖いのよ。
総裁だから?
いいえ。
あの子は脆いから。
……ああ。なるほど。
そうだね。
アンタとダンナがいなかったら、きっと潰れてたわ。
それは買いかぶりすぎ。佐和子センセや東郷氏がいるじゃない。
アンタたちほどの影響力はないのよね、残念ながら。
だから。買いかぶりすぎだって。
……ねぇ、佐和子先生。
なに? あらたまって。
うん。単刀直入に訊く。
……。
あと、どれくらい生きられる?
……あら。
真剣なんだけどな。
でしょうね。
でもアンタがそんな殊勝なことを訊くとは思ってなかったから、ちょっとびっくりしたのよ。
なにか思い残ししたくないことでもあるのかしら?
……うん。絵が描きたい。どうしても。最後に1枚。
最後と決めなくても良いのよ?
……て、かなり辛くなってきてる?
……。
そう……。
頭の中にあるコレ。描き終わったら止めても良い。
……。
どうしても、描きたい。
……わかった。
……。
保証はできかねるけど、バックアップだけはしてあげる。
ん。
少しでも具合が良くないと感じたら、すぐに連絡よこしなさい。
えー……。
(机の引き出しをあけて)コレ。
携帯ー?
……てかコレ、子供用のじゃないの?(苦笑する)
どのボタンを押しても、私に繋がるように設定してある。……というか、他には発信できないから。
せめて、アトリエに置いておきなさい。
へへ……。
心細くなった時とかでもいいわよ。話し相手くらいにはなれる。
センセ、忙しいでしょーに。
……私がね、外科医にならなかった理由はここにもあるのよ。
手術だなんだって、緊急で拘束されることが多いからね。
本当に緊急で医者という存在の助けが欲しい時に、外科医だと対応できないことが多いのよ。
……なるほど。
この手の携帯を渡してるのはアンタだけじゃないから、毎回手助けしてあげられるってワケじゃないけど、それでも、医者とダイレクトに繋がっているって思うだけで安心できる人もいるのよ。
だろうね。……ん。ありがと。持っとく。(ポケットにしまう)
……ところで、最後になにを描きたいのかしらー?
……ふふふ……ナイショ。
(微苦笑しながら肩をすくめる)
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