オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 時間外

17th Summer

17th Summer 本文

時間外。
春花17歳(高三)、友則61歳。
初夏。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○岩下家母屋、外観。遠景。
2階の屋根の一部が見えている。
(秋子)
友ちゃん(お父さん)、春花、呼んできてくれます?

 

(友則)
おー。

 

『 Été, après cinq ans. 』
○岩下家 階段。
友則の足、階段を上がる。春花を呼びながら。
友則
春花ー。

 

友則の後頭部。同じく。
友則
はるかー。

 

○岩下家2階 春花の部屋の中から。
友則、春花の部屋の入り口から内部を覗き込む。
友則
はるかー?

 

春花、返事なし。
友則の視界。部屋の奥の勉強机。しかし春花の姿なし。
友則
寝てるのかー?

 

呼びかけながら部屋に入る。
果たして春花は自分のベッドで昼寝(?)中。
まんまるになって、薄い綿毛布にくるまっている。足は出ている。
顔はこちら。しかし誰かが入ってきた気配は感じていず、熟睡しているようだ。
友則、その姿を見て、亡妹・貴子の中学生か小学生の頃の姿を見る。
春花と同じ姿勢でうずくまるようにして眠る、昔の貴子を。
友則
――――。

 

そうか、この部屋は……。

 

風がそより…と吹き込み、薄いオーガンジーの夏カーテンが揺れる。
友則、それにつられて視界を左へと移す。
窓の外。広がっているのは、昔からあまり変わらない風景。
屋根瓦の波。小島のように転々と見える小さな緑の塊。
遠く、ビルディングの森がうっすらと見え、さらに遠く、スカイツリー?…が。
友則
(独白)あいつの――

 

友則、しばし外の風景に目を奪われる。
○春花の部屋 ベッドの上。
春花、ふと目が覚める。
春花
……ん……。

 

視界が鮮明になると、自分のベッドに腰掛けて、外をじっと見ている父の後ろ姿(ナメ後)
ちょっとびっくりするが、寂しそうな父の様子に声をかけるのをためらう。
そしてその姿を静かに見つめる。
見上げる父の背中は、相変わらず小さくはないが、しかし丸くなっていて。
目元のシワも深くなっている。
父はもう若くはないのだ……と、娘は気づいてしまった。
父は何を見ているのだろうか?
○岩下家母屋・階段下。
秋子(影)が階段下から2階に呼びかける。
(場面変わらず、秋子の声のみでも可)
秋子
友ちゃん? どうしたんですか? 春花は?

 

○岩下家母屋 2階春花の部屋。
秋子の声に、友則はハッと目を見開く。春花もはっと気がつく。
春花
(横になったままで)お父さん?

 

友則
あ……ああ、ちょっと、ぼーっとしてたよ。

 

春花
(起きながら)……。
(同)ずーっといたの?

 

友則
いや、さっき来たところだよ。お前を呼びにね。
さ、お昼だよ(立ち上がる)

 

春花
うん。……起きます。

 

友則
(部屋から出つつ、しかし足を止めて)受験勉強はいいが、夜更かしは感心しないね。

 

春花
(肩をすくめて)はーい。
そうね、つい寝ちゃうんじゃ、効率が悪いわ。

 

友則
(苦笑しながら)そうだね。
さ、メシを食おう。みんな待ってるだろうからね。
(部屋から出て行く。階段を下りる音)

 

春花
うん(あとについて出て行く)

 

春花の部屋から入り口に向かって。
誰もいない廊下。
下へ降りる父と娘の小さな足音。
そして家族の声。
母の声「ずいぶん遅かったじゃない?」
娘「聞いて聞いて。おとーさんったら、私の寝顔ずーと見てたんだってー」
父「こら。誤解を受けるよー……」
娘「私が可愛いからだもんね、ねー、おとーさん」
母「はいはい。……タカくーん、トモくーん、お昼よー」
兄2「はーい。タカー、先行くぞー」
兄1「お前、表に看板くらい出せよ」
等々……。
初夏の日差しはまだまだ優しく。
風もまたやさしく。
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