オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 後期

ワキの人たち・3

ワキの人たち・3 本文

その3
…つっても、出てくるのは、東郷氏と佐和子先生。
この2人、実は従表兄妹(はとこ―母方)同士で同い年だったりします。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
はぁい。
や。
時間ぴったりね。
そっちこそ。
お互い、ワーカーホリックってところかしら?
それだけ時間に追われてるってことだろう?
このあとは?
仕事。そっちも?
ええ。そう。……とりあえず、河岸を変えましょ?
そうだね。部屋を取ってある。
美味しい店?
どうかな? 味よりも守秘を優先したから。
そうは言いつつ、味も一流のトコよね?
さぁ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
んー。
さすが学(さとる)。良い店知ってるわぁ。
口に合ったのなら、重畳。
馬、好きなのよ。私。……すき焼きもね。
この時期なら、鍋が良いね。
このたてがみ。火が通ってもぷりぷりしてるし。
店の人についててもらう方が、もっと美味いんだけどね。
いいわよー、今日は。
今度自分で来るときそうしてもらうし。
是非ともそうしてくれ。
一度来れば、次からは大丈夫だから。
一見客お断り……っていうのも良いわ。落ち着いて食事が出来るし。
この部屋に来るまで、他の客と会わないっていうのも良いわね。
そういうのを売りにしている店だからね。
玄関から部屋までのコースが幾通りかある上に、玄関も3ヶ所ある。
密談にはもってこい……か。
そういうこと。
……で? 今日はメシをせびるために一席設けろなんて言ってきたわけじゃないだろう?
ええ。もちろん。
それだけなら、普通の定食屋でいいもの。
……で、何かな?
あらかじめ断っておこうと思って。
何を?
お嬢が嫌がりそうなコト。
ん?
……貴子。
貴子さん?
今ね、愛人なのよね。私の。
………。
しばらくの間……そんなに長くはないと思うけど。
理由がありそうだね。
もちろん。基本的にヘテロだもの、私。
もし同性OKであっても、ああいうのは守備範囲外ね。完璧に。どちらかというと、願い下げ。
………。
性格が面倒。それに尽きる。
たださ、お嬢のダンナの妹じゃない?
アレに何かあって、お嬢が泣くのは嫌なんだわ。
そう言うからには、何かありそうな感じなのかな?
ありそうどころか。
たぶんあるわね。……じゃないと、あんなにちょこちょこ事故ったり倒れたりしないでしょ?
こないだの事故以来、車に乗るのはやめたらしいけど、正解だと思うわ。自分の視界が揺れているのにも気が付いてないようだもの。もっとも、揺れてるのに揺れてないって言ってるだけの可能性も大いにあるけどね。
うーん………。
だからまぁ、ちょこっと手元に置いといて、観察しようって……ね。
それなら別に愛人になる必要はないような気がするんだけど?
あの手合いの内面に突っ込むなら、恋人にでも愛人にでもならないと、自分をさらけ出さないわよ?
もっとも、愛人になったところでさらけ出してくれるかどうかは微妙だけど。
ふむ。
……あ、そのお豆腐、貰っていい?
……どうぞ。
ふふふ……すき焼きの焼き豆腐って、汁が染みたらすごく美味しいわよね。
最後はうどんで〆るかい?
ええ。お願い。
(インターホンでうどんを頼む)
~~♪
……玉子、オレのもやろうか?
そぉ? ありがと。
こっそり肉で蓋をするクセは、なおらないねぇ(苦笑する)
いいじゃないのー?(ふふん、と鼻で笑う)
……ところで。
ん?
そういうことなら、協力しよう。
ありがと。
秋(しゅう)ちゃんの耳に入らないようにするくらいは簡単だからね。
そうね。貴子の口から漏れない限りはね。
秋ちゃんの帰宅スケジュールをリークしよう。
助かるわ。
その情報については、取り扱い注意で頼む。
もちろん。
それと、もう一つ。
なに?
貴子自身のことを。
あら? 「さん」抜きなのね?
ここから先はね。
……?
(インターホンが鳴る。東郷が受ける)
まずは、うどんを食おう。
はいはい。
(うどんが来て、鍋に投入される。食べ頃に煮立ってから、店の者が退出する)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あちあち………。
なかなか……絶妙な煮え具合ね。
やっぱ今度、ひとりでゆっくり来よう。……あ、貴子と来てもいいわね。
その……貴子だが。
はひはひ。
彼女……被虐傾向に……ある。
ひぎゃ……?
何それ? マゾってこと? やだ。
真性じゃない。だが、ある線を越えると、そういう傾向が出てくる……という話。
ますます面倒な性格ねぇ。
一種の重篤なコンプレックスを抱えているのは解っている?
ええ。一応ね。面倒な性格は、そのあたりから来てんでしょ。
そこをちょっと強く突くと、簡単に落ちる。
はぁ?
精神的に崩れたら最後、歯止めが利かない。意識が無くなるまで被虐行動を繰り返す。
Sexual Addiction的行動に出ることが多いね。……よくあれで今まで事故が起きなかったものだよ。
対象が同性だからじゃない?
……二十代までは両刀だったはずだが?
でも、男の相手はほとんどいなかったはずだけど?
長続きしない云々。
一夜限りはそれなりにいたようだよ。
……かくいうオレもそのひとりだけどね。
……あ"あ"っっ?
おや珍しい。佐和ちゃんがそんなに驚くなんて。
驚くわよ。あんた、超がつく奥さん馬鹿じゃないのっ!
止むに止まれぬ……というヤツだね。
たぶん彼女は憶えてないよ。
マジー?
ああ。
そういうこと。……本当に、今までよく事故がなかったと思うよ。
あー……面倒だなー。なんつー面倒な性格なんだ、あいつ。
この手を使うかどうかは、君次第。
あまりにも諸刃の剣だわ。
そうだね。……オレは偶然体験しただけで。ああいうことは、もう二度とごめんだね。
そうでしょうね。
……とりあえずどうする?
この禁断の鍵。君は受け取るか?
………。
(うどんを食べる)
……わかった。使う使わないは置いといて、とりあえずその鍵預かるわ。
(にやり、と笑う)わかった。こっちも取り扱い注意で頼むよ。
もちろん。
……じゃ……(指先で、くいくい、っと手招きする)
(四つん這いでテーブルを迂回して、東郷に耳を近づける)
『――――。』
(元の位置に戻って)……なんてこと。
(肩をすくめる)
ホントに、バッカじゃないの!? あいつ!!!
(苦笑して)……そうだね。
……あー。ムカムカするっっ!!
うどん、食べちゃえば?
『最後の一本は自分の』……だろ?
そうね。
(うどんをすべて食べてしまう)
……あー、食べた食べたー。
………。
学(さとる)ー。
なんだい?
ごちそうさま。
……どういたしまして。
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