オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 後期

化石と出張。

化石と出張。  本文

ヤツがろくでもないことを言い出すのは、いつものことでして。
後期の中程。
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(科学雑誌をめくりながら)ねーぇ、柳原さん。
(新聞をよみながら)……なぁに? 貴子さん。
あのさー。……博物館とかって作らないの?
……はぃ?
博物館。
……何が目的かしら?
いえ、別にー。
今読んでる雑誌と関係ありそうだけど?
いぃえぇ、別にー。……なくは、ない。
ほらやっぱり。
合法的に手に入れるには、やっぱ……ね。
……。何が欲しいの?
……怒らないなら、言う。
怒らないわよ。呆れるとは思うけど。
あ、そっちならおけ。
予想の範囲内。
……で? 何が欲しいわけ?
化石。
それは分かってます(貴子の手元の雑誌を指さす)
恐竜特集の雑誌を読んでる人が、電信柱が欲しいなんて言うはずないもの。
ものすごく飛躍したね。
相手はあなただし。
ひどい言われよう(笑う)
何の化石が欲しいわけ? ……というか、簡単に手に入らないモノを言ってるわよね。
まぁね。
個人じゃよほどのことじゃないと手に入らないと思う。
……で、何? もったいぶらないでくれるかしら?
(雑誌を広げて、雷竜の絵を差し示す)これ。
これ?
ずいぶん大きな恐竜に見えますけど?
そりゃぁ……ね。
あ、でも全身骨格じゃないから、安心して。
その申し出はありがたいけど、それでも安心にはほど遠いわね。
もー。
頭? 欲しいのは。
いんや。
……大腿骨。
はぃ?
大腿骨の、本物の化石が欲しいなーって。
それで、博物館……か。
個人じゃ手に入らないもの。たぶん。
お隣の大陸あたりで大量に出土してるらしいから、うまくやれば個人でも手に入りそうだけど?
無駄遣いの極みよね。個人で買うなら。
そぉかね?
それ以前に、どこに置くつもり? “あずまや”にはきっと入らないわよ。
うーん。それが一番の問題だからさ、いっそ博物館を……さ。
科学に貢献するのも企業の務めでしょう。
ずい分前には「文化貢献」とか、仰ってなかったかしら?
そうだったかね?
そうよ。
……それはともかく、レプリカじゃダメなの?
それでも我慢できなくないけど、やっぱ本物が欲しいじゃない?
私にはよく分からないわね、その感覚は。
そーかなー?
撫でたり抱きついたりよじ登ったりしたら、きっといいインスピレーションが浮かぶと思うんだ。
さらに分からない感覚よ。私にはね。
むぅ。夢がないなぁ。柳原総裁は。
朴念仁で結構よ。
自分個人が欲しいからって、会社を動かしてまで手に入れようとする強欲さは見習いたくないからね。
あらら。怒った?
さぁ、どうかしら?
んー。ごめんなさい。
怒ってないわよ。
いんや。その態度はすごく怒ってる。
……家で会社の肩書きなんか出さないで、て言ってるのに。
はい。ごめんなさい。
……よろしい。
…で、ペナルティってわけじゃないんだけど、今度の出張、一緒に来てくれないかしら?
出張? どこ?
欧州各地。
あら、そらま。
……いいけど、子供らと兄貴はどーすんのさ?
もちろん、留守番よ。
だのに、ワタクシをお供にする?
ええ。通訳と秘書兼ねてね。
えー。
またですか。
ええ、『また』です。
アンドレ・ザ・ジャイアントが面倒なんだよなー。
東郷君なら、別件で今カナダよ?
彼と入れ違いに日本を発つわ。
あ。そーですか。
(鼻で笑って)思惑が外れたわよね?
……まぁね。
……で、頼まれてくれる?
完璧にペナルティじゃん。
あなたがルール破りなんかするから。
ごめん。てば。
ちょっと向こうで、のんびりしない?
……は?
イタリアとかいいわよね。
……んー……。
(諦めたように笑う)そーだね。
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