オリジナル格納庫

ある意味、カオスの巣窟。

あの桜並木の下で 小品集 中期

報告とニセ赤飯

報告とニセ赤飯 本文

いつもの夕方。しかしヨメがなぜか早く帰ってきた!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ただいまー。
…あら、おかえり。
今日はまた、気味悪いくらいに早いわね?
ええ。ちょっとね。……あら?
うん。愛媛からー。
だもんで、今日はちょっとリッチな晩ご飯(笑)
こんなにたくさん。
……お元気そうね。
チヨ子さんから。アンタ宛の手紙。……そこ。
私だけ?
いんやー。アタシにも別個で手紙入ってた。
そう。……なんて?
んー? …ふふふ、ナイショ。
最後に一言、「孫(アンタ)をよろしく」って書いてあったわよ?
相変わらず女性には大モテね。
……妬ける?
祖母と義妹(いもうと)に妬いてもねぇ。……あ、ご飯。炊きあがってるみたいよ?
あー。そういえば、アンタが帰ってくる直前に、「かちゃん」て音してたな。
蒸れすぎちゃうから、開けて反して。
はいはい。
人使いが荒いわね。
いつものことじゃーん(きしし、と笑う)
今手が離せないから、よろしくー。
はいはい。
……あ。
ん?(声には振り向かずに)
……お赤飯みたい。
ああ。今回は黒米も入ってたの。
だから、入れてみた。
なるほど(クスリと笑ったが、貴子は気がつかない)
………。
はい、完了。……着替えてくるわ。
んー。ついでに兄貴も呼んできて。
あと30分もかかんないと思うから。
はーい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お。赤飯みたいだなぁ。
今日は何か祝い事か?
いんや別に。
愛媛から届いた荷物の中に入ってたから。
ほう。あとでお祖母さんにお礼の電話をしとかんとなー。
じゃ、いただきまーす。
……頂きます。
はい、どーぞ。……いただきます。
(もふもふ食べる3人)
んー。やっぱ新米は美味いなぁ。
搗(つ)き立てだしねー。そして、アタシの炊き方も、良い……と。
………。
大いなる自画自賛だ。
まぁねー。たまにはね。
………。
……てか、やなぎはら。
今日はなんか大人しいわね。
帰りも妙に早かったし、もしかして、どっか具合でも悪い?
……いいえ。
具合は悪くないわよ。
早退をしたのは確かだけどね。
じゃ、何?
顔色は……別に何ともないようだな。
ええ。大丈夫。
今日のご飯がとってもおいしいから、しみじみ食べてるのよ。
そーか(何も疑わず、ゴハンをもっはもっはと食べる夫)
ふぅん……(訝しいんではいるが、とりあえずゴハンを再開する義妹)
(滞りなく進む夕食風景)
……お二人さん。
んー?
ぉあー?
そのままで良いから、聞いて頂戴。
ちょっと話があるの。
ほいほい。
ふまふま。
あのね。今日、早退して佐和子先生のところに行ってきたのだけど。
あ?
ぁに? 2、3日休暇でも取りたいの?
いいえ。
……別の科に回されちゃって。
ぉ。
ぁ?
……妊娠してるって。
………。
………。
………。
ちょっと、あなた達。
………。
………。
線対称で停まらないでくれる?
そ……それは。
……おめでとう。
………。
感動が薄いわね?
いや、驚きすぎて(×2)
……もう(苦笑)
しかし……(飯椀を覗きこんで)
やっぱり祝い事だったんじゃないか! 貴子!!
し、知らん!!
偶然だって。ホントに!!
こんな時、アンタをかついで何になるっつーのよ!?
兄妹げんかしないで頂戴。こんな時に。
……あ。なんかじわじわ来た。
うむ。そ、そうだな。
……えーと……お、親父になるのか? 俺が。
そーゆー事になるわね。がんばれ、とーちゃん。
ぃよっしゃぁあ!
よーし。兄貴、飲もう飲もう!!(どたどたと台所に走っていく)
貴ちゃん、私はいらないわよー。
というか、飲めないわよー。
しゅ、秋子ぉ!!
はいはい。
何というか、何と言っていいか……っ
し、しかし……仕事に差し障りが出るんじゃないか?
ありがとう、友ちゃん。
……私、産むわよ。そのあたりは心配しないで。
みんながフォローしてくれるわ、きっと。
(どたどたと戻ってきた)ぉっしゃぁ!
飲もう!
やなぎはらはジュース! ワイン気分になれるかもよ!!
(日本酒と葡萄ジュースとグラス3つをちゃぶ台の上に置く)
ささ、兄貴。ここは家長が取り仕切って!!
おう。もちろんだとも!!
(上機嫌で2つのグラスに日本酒を、1つのグラスに葡萄ジュースを注いで各人に渡す)
……で、ででででは諸君、グググ、グラスは持ったかね?
(3人ともグラスを捧げ持っている)
いいから、先、ちゃっちゃといっちゃって。
でかした! 秋子!!
俺たちもできるだけフォローするから、心おきなく……心おきなく、産んでくれ!!
そして、おおお、俺たちの新しい家族に、無事、出会えることを祈って。……乾杯!!
乾杯っ! ……いや、めでたいっっ。
ありがとう。
すんげー嬉しいっ!!
おう。
……そーだ。愛媛に、電話。電話っっ!
貴子っっ!!
わーってるって!
……子機。子機ー!!
……ってー、あったあった!!
ふたりとも、興奮しすぎよ。
………。
……あ、もしもし。チヨ子さん? アタシ。貴子貴子っ。
あ、荷物ありがとう。今日届いたよ。……で。でね、でねー……
秋子くん。
はい?
男かなぁ? 女かなぁ?
まだわかんないわよ。
……産科の主治医は佐和子先生が強く推薦したくれた方なの。
そうか。じゃ、安心だなぁ。
ええ。もちろん佐和子先生が総合主治医だから、さらに安心よ。
うん、うん。
やなぎはらー。チヨ子さんが替われってー。
はいはい。
……あ、お祖母ちゃん? ……ええ、そう。そうなの……。
信じられないけど、すごいな。
うん。すごい。
この家が、4人になるんだ。また。
なにそれ?
30年くらい前にだな、お前がやって来て、1年くらいは4人だったんだよ。
あ。そーか。
今度は長く4人でいたいな。
大丈夫だってー。
しかしそれだとお前がいつまでもこの家にいることになるのか。
それも考えものだな。
あらひどい(苦笑)
貴子。
はい、なんざんしょ?
今日は飲むぞ。
アンタが潰れるまでつき合いましょ。
嬉しいな。
うん。嬉しいねぇ。
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