オリジナル格納庫

疲れた表情の秋子（しゅうこ）が仕事から戻ってきた。
玄関の電灯は点けられているが、内部は水を打ったような静かさ。
すでに家人は就寝中のようである。
秋子、ため息をひとつ付いて玄関の外と内の電気を消し、暗い廊下を
足音がしないように、そっと台所へと歩いていく。
台所に入り、シンク上の小さな蛍光灯の紐を引く。
明かりはともされたが、その光は青白くやや薄暗い。
テーブルの上に広げて置かれた折りたたみ式蠅帳（蝿避け・キッチンカバー）を取ると、
そこには冷めたおかず一式が並んでいる。
秋子は再びため息をつく。そして遅い夕食を取るために、おかず達の横に伏せて置かれた
自分の飯椀を取り上げようと手を伸ばしたその時、いきなり台所全体が明るくなる。

まぶしさに目を閉じていた秋子は、そろりと目を開け、声のほうに視線を向ける。
そこに立っているのは貴子。素肌に法被状の上着をひっかけ、前をはだけている。

貴子、秋子に言われた通りに、手早く前を合わせると、
手に持っていたロープ状の紐を腰のところで３回ほど巻き、
やや左寄りの前面でそれを括る。

いきなり秋子の目から、ぽろぽろと涙が溢れる。

貴子、立ち上がって小どんぶりに飯をよそうと、
鯛のアラ炊きとゴボウをその上に乗せて、
さらにその上からポットの湯をまんべんなくかける。