あの桜並木の下で 小品集 時間外

後日譚

 『再発。』の数年後…。
 柳原本邸にて。
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……それだけ?
ええ。それだけよ。
……。
病状は確実に進行していたから、さほど遠くない将来に亡くなったでしょうけど。
……。
今回の、アレの件についてはね、病態の進行が直接の原因ではないわ。
……。
単に息が止まっただけ。たぶん、本人は苦しくも何ともなかったでしょうよ。
……そう。……それならいいわ。
お嬢……。
苦しくなかったなら、それでいいの。
……そうね。
絵が出来上がって……満足しちゃったんでしょうね。
……どうかしらね?
あんがい本人は、自分が死ぬなんて思っていなかったかもよ?
タバコ、吸った跡があったんでしょ?
ええ。一本と、一口だけね。
ハムスターみたい。
……え?
ハムスターとかウサギとか……ヒヨコや小鳥なんかもそうなんだけど。
ちっちゃい動物って、死ぬ気配も原因もないのに、単に息が止まるというか、
心臓が止まっていきなり死ぬことがあってね。
……それみたいだな、って。
……うん。
……でも……貴ちゃん的にはこれで良かったのかも。
……。
病気に蝕まれて、衰えきって最期を看取られるのは、きっと彼女にとってはこの上ない苦痛だろうなって、思うの。
でしょうねぇ。あの性格じゃね。
ええ。……だから、たぶん。
貴ちゃんにとっていちばん理想の逝き方なのかも。
自分勝手なアイツにはふさわしい……か。
でも、正直言わせてもらえば、最期に「さよなら」くらい言わせて欲しかったわ。
そう思うの、きっと無駄よ。アイツには。
……。
お嬢が「さようなら」って言ったとしても、アイツは「またね」くらいしか言わないわよ。
……そっか。
ええ。
……そう……そうね。
ところで、あのバカでかい絵、どうするの?
アトリエから出すには、家を一部解体しないと出せないでしょうね。
あれ、ほんの一部だし。
死んでも誰かに手間かけさせるわよねぇ。
……誰かじゃないわ。
ん?
……私に手をかけさせるのよ。死んだあともね。
自信たっぷりね。
アレを組み立てて表装できるのは、私しかいないわ。
……。
最後の……貴ちゃんからの挑戦状なのよ、あの絵は。
……。
この絵を組み上げてみろ……てね。
……ふ……。
……なぁに?
あんたたち、いい相棒同士よね。
……そう……かしら?
ええ。きっとそうね。
…そうであって、欲しい……わね。
……ぶっちゃけ、羨ましいわよ。
そういう関係。私には存在しないものだからね。
……。
春花のこともあるから、しばらくはあのままにしておくわ。
組み立てて置けるところって、柳原本邸(この家)しかないし、
ここに持って来ちゃったら、なかなか見に来れないでしょうしね。
ほとぼりが冷めるまでは、アトリエに。
……それがいいかも、しれないわねぇ。
……。
……。
……貴ちゃん……。
……。
……もう少し……もう少し……
……。
……生きてて……欲しかっ……た……。
……ええ……。

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