ERAMINAN

強いて言うならば、それは、ライフワーク。

サウス=ニザム・駄文 :: ―ERAMINAN―

じょうし と ぶか 

じょうし と ぶか 本文

 軍隊は階級で上下がはっきりと区分された縦社会。
 いくらこっちの年齢が上だろうと軍歴が長かろうと、むこうの階級が上ならば“上役”“上司”。
 ……ではあるが。
 たまーにそうは言ってもおれない状況が発生することもあったりするわけで。
 こと、あっちとこっちの小隊長同士が同期な上に犬猿の仲だったりすると、もう目も当てられない……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○中隊長室内 ピロット大尉、キャンソン中尉、ワトソン曹長。
ドアからノック。
ワトソン曹長がそのドアの前に行く。
ワトソン
誰か?

 

ソニアです。アポなしで申し訳ありません。
ピロット大尉に火急のお願いがあって参りました、

 

ワトソン、ピロット大尉のほうを向く。
ピロット大尉、うなずく。
ワトソン
是。今、開けます。

 

ワトソン、ドアノブに手をかけ、ドアを開きながら……
ワトソン
ソニア軍曹……一体どうし……っっ!!……
(外にいる者を認めて、みるみるうちに顔が青ざめ、
反射的にドアを閉めて体ごと後ろに向いて、ドアを押さえた)
っわぁ!! 閉めちゃった!!!

 

ワトソンの様子を見たピロット大尉とキャンソン中尉は一瞬真顔になるが、状況は何となく察しているらしく、 ピロットはデスクの上の書類をとりあえずデスクの引き出しにしまい込み、 キャンソンは書類棚のひとつを開けて、ペラ紙を1枚取り出して、ピロットのデスクの脇にそっと置く。
ピロット
(居住まいを正して、静かに)ワトソン(手で開けるように指示を出す)

 

ワトソン
は……はい。すみませんでした。
(ドア越しに)ソ……ソニア軍曹。入り、たまえ。

 

ワトソン、冷や汗をかきながらドアを開ける。
果たしてそこにはソニア軍曹が無表情で立っている。
ピロット。ワトソンの反応で予想はしていたが、 予想以上にソニアが不機嫌なことを、その表情と全身から醸し出している雰囲気から 察知して、思わず生唾を飲んだ。
傍にいるキャンソンも同様で、こちらは硬直している。
ソニア
失礼します。
(敬礼しながら)アポイントなしにも関わらずお目通り頂きまして、
感謝致します。

 

ピロット
……物々しいね。

 

ソニア
申し訳ありません。

 

ピロット
軍曹がそこまで怒ってるのは、あれだね。

 

ソニア
大変申し訳ありませんが、“別室”をお借りしたく。

 

ピロット
(黙ってキャンソンが置いたペラ紙に何か書き付ける)
はい。(それをソニアに差し出す)

 

ソニア
(敬礼し、受け取って一読し)恐れ入ります。

 

ピロット
今度は、何を?

 

ソニア
いつものことです。

 

ピロット
ふむ。
……ま、あれは日課の散歩みたいなものでしょ?

 

ソニア
そうかもしれませんが、示しが付きません。

 

ピロット
確かにね。
……。
これも定例行事とは言え、
お目付役も大変ですね。レッド・ソーニャ(にこ、と笑う)

 

ソニア
(憮然と敬礼)では、失礼します。(踵を返す)

 

ピロット
あ。軍曹。

 

ソニア
(その場に留まって)……なんでしょうか? 大尉。

 

ピロット
上が示せば下は自ずと付いてくる。

 

ソニア
……。

 

ピロット
分かってるとは思うけど、ま、お手柔らかに……ね。

 

ソニア
それは、あいつらに言ってやって下さい。

 

ピロット
それも、そうですねー(手を肩の高さに上げ、ヒラヒラと指を振る)

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○“別室” ソニアとサリー。 スピッチコック(以下ジル)とサブリナ。
場面は交互に切り替わる。
借りた“別室”は実は隣り合わせの二室。
ソニア
……で、今回の原因はなんですか?

 

サリー
(一応神妙な顔で。でもどこか真剣みはない)んーなんだったかなぁ?

 

ジル
じゃ、質問を変えます。
どっちが先に、けしかけたんですか?

 

サブリナ
えー? アタシじゃないわよ。

 

ソニア
本当でしょうね?

 

サリー
もちろん。SDM(撃墜マーク)に誓って(手を胸の高さに上げる)

 

ジル
……(渋い顔)

 

サブリナ
(悪びれずに笑う)

 

ソニア
とにかく。これ以上お隣の小隊長といざこざを起こすのは
勘弁して頂きたいものですな。

 

サリー
んー。それは……あちらさんに言ってもらわないとー。

 

ジル
少しは我慢の道もおぼえてください。
じゃないと、他の小隊員に示しが付きません。

 

サブリナ
だーかーらー。
言ってるじゃない。
先に仕掛けてくるのはあっち。アタシはなーんにもしてないわよ。

 

ソニア
……。

 

サリー
……(あれ、ヤバいかな? という表情)

 

ジル
そろそろ、新米少尉の気分は払拭して下さい……と申し上げているんですが?
私もたいかい、おなじことを言い続けるのにも飽きて参りましたし。

 

サブリナ
サリー

あー……アタシもそろそろ飽きて来たかもしんな……

 

ソニア
分かってるんだったら、反省して下さい!!!(机バン!!)

 

ジルとサブリナ。
隣室のソニアの声に動きが止まり、肩をすくめる。
ソニア
いいですか! ピロット大尉のところで止まって、上に報告が行かないから
この程度で済んでいるんですよ?
わかってますか!?

 

サリー
いや……でも、ピロット大尉だって自分の立場が……

 

ソニア
自分の立場があるから止めている。その通り!
だからといって、週イチの割合でバリー少尉と取っ組み合いする道理はない!
何か間違っているか!? サリー!!
(隣室側の壁に向かって)サブリナも!!

 

サリー
サブリナ
ジル
……(小さくなっている)
……(身をすくめてる)
(自分も叱られている気分になって胃が痛い)

 

サリー
……はい。

 

ソニア
……よろしい。
サブリナは?

 

サブリナ
(壁の向こうから弱々しく)……はぁい……。

 

ソニア
ジル。

 

ジル
は……はいいっっ!!(飛び上がって、壁となっている仕切りを開ける)

 

実はこの部屋、可動式壁で区切られている部屋のひとつ。
全てを開け放てば、20小隊全員が収容でき、大型ブリーフィングが行えるほどの部屋。
ソニア
……ということで(手元に置いていたバインダーから1枚のペラ紙を出し)
今回の罰として、以上のことをやって頂きます。

 

サリーとサブリナ、書類を覗き込んで。
サリー
サブリナ

(二人同時に)げ。

 

ソニア
ピロット大尉から直々のご命令です。
……何かご質問は?

 

サリー
サブリナ

……ありません。

 

ソニア
宜しい。
では、15分後に、第3教練場にご集合を。
では、解散。

 

サリー
うい~~っす……。

 

サブリナ
へぇーい……。

 

サリーとサブリナ、ヨレヨレと立ち上がって、部屋を出て行く。
ドアがパタンと乾いた音を立てて閉まった。
ソニア
ジル。私たちも行こうか。

 

ジル
は……はい。

 

ソニア
いい機会だから、我々も少々体を動かせとの、ピロット大尉のご命令だ。

 

ジル
マジすか?

 

ソニア
監督も兼ねるが、まぁ連帯責任というところかな。

 

ジル
ですよねぇ…。

 

ソニア
……ジルはもっと自分に自信を持たないとな。
毎回毎回、あの二人のケンカを制止できないとなると、困りものだぞ?
とにかくあいつら、人を見ているからな。
私が一緒だと、口先でケンカはしても、取っ組み合いにはならないんだ。

 

ジル
ええ。そらまぁ自覚はありますよ、自覚はね。
ソニア軍曹だったら、牽制だけで終わるのになぁ……って。

 

ソニア
(とほほ、と顔を崩しながら)まぁ、お前はあいつらと歳も近い。
仕方がないことだが、もう少し……な?(肩をポン、と叩く)

 

ジル
あははは……はぁい。がんばります……(力なく笑う)
時にソニア軍曹

 

ソニア
ん?

 

ジル
この命令書の内容。
作ったの、軍曹ですよね?

 

ソニア
まぁな。確かに、ひな形を作ったのは私だよ。

 

ジル
(やっぱり、と小さくため息をついて)
了解しました。
では、がんばりましょ

 

ソニア
うむ。

 

ソニアとジル、部屋から出る。ドアがパタンと閉まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○オマケ 中隊長室
ワトソン。脱力して口からタマシイが出ている。
キャンソン
(それを見てピロットに)……そうとう怖かったようですな。
まぁ、あの勢いでは致し方ありませんが。

 

ピロット
そのようねぇ(書類にサインをしながら)
……ソニア軍曹のアレって、実は演技のことが多いのだけどねぇ(ぼそっと)

 

キャンソン
……は? 何か?

 

ピロット
ん? いいえぇ。なんにもー。
ところでアレ(ワトソンをボールペンの尻で指して)
そろそろこっちに戻しておいて。
仕事が引けたらPXに行きましょ。
ふたりにアイス奢ったげる。新製品が出ているんですって。

 

キャンソン
あ。はいはい。了解しました。
ありがとうございます。

 

ピロット
怖い思いもさせちゃったしねぇ。そのくらいは……ね(苦笑する)

 

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