恋人でなく。
恋人でなく。 本文
					 アラフォーで親友な聖蓉。
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○蓉子のマンション 玄関
					音
							(ピンポーン)
							
蓉子
							……いらっしゃい、聖。
							
聖
							やぁやぁ。おひさー。
							
蓉子
							とにかく、入って頂戴。
							
聖
							では遠慮なく。おじゃましまーす。
							
○同 居間
					蓉子
						聖にお茶を勧めつつ)……で、最近はどうなの? 順調?
						
聖
						まーねー。やっとなんとか軌道に乗ったって言うかねー。
						
蓉子
						辛抱の時期が長かったわよね。
						
聖
						ここ10年、何やっても上手くいかなかったもんね。
						
蓉子
						ホント。良かったわ。
でも、足をすくわれないようにしないとね。
						でも、足をすくわれないようにしないとね。
聖
						そうね。今の取引先がいつ無くならないとも限らないからね。
でもまぁ、底上げできて、今はかなり楽になったよ。
相手方が「もういらね」って思うまで、がっつり頑張らせていただきます。
						でもまぁ、底上げできて、今はかなり楽になったよ。
相手方が「もういらね」って思うまで、がっつり頑張らせていただきます。
蓉子
						(微笑)
						
聖
						ところで蓉子の方はどうなの?
そろそろ独立とか、考えてないの?
						そろそろ独立とか、考えてないの?
蓉子
						んー。私はもうこのままでいいかなって考えているのよ。
						
聖
						あらま。蓉子さんらしくない。
						
蓉子
						そうかしら?
						
聖
						だって。人に使われるより、人をたくさん使ってそうなイメージがあるよ?
						
蓉子
						部下はそれなりにいるもの。
						
聖
						あ。やっぱり?
						
蓉子
						独立するのは考えなくもないけど、そうなったら一人では仕事が回らないから
誰かを雇うって話になるだろうけど、それを考えたら二の足を踏んじゃうのよ。
						誰かを雇うって話になるだろうけど、それを考えたら二の足を踏んじゃうのよ。
聖
						ふーむ。
						
蓉子
						私ひとりなら、潰れたってどうとでもなるけど、人を雇うとなると、その人に対する責任が出てくるでしょう。
お給料だって安くでというワケにはいかないし、だからといって人を育てている時間はないと思うのよ。
						お給料だって安くでというワケにはいかないし、だからといって人を育てている時間はないと思うのよ。
聖
						まぁねー。……て、一人でやってる私には、よく分からないことではあるけどね。
						
蓉子
						お給料からボーナス、保険年金の掛け金、そして退職金……と考えていくと、おおざっぱに見込んでも……(紙に数字をサラサラと書き)これくらいは最低でも必要なのよね。
						
聖
						ふーむ。……ちょっと破格な気もするけど……。
						
蓉子
						専門職ですもの。国家資格を持った。これくらいは……ね。
						
聖
						なるほど。
まぁ、自分の分以外にこれだけ稼ぎ出さなくては……と思うと、確かに…
						まぁ、自分の分以外にこれだけ稼ぎ出さなくては……と思うと、確かに…
蓉子
						雇われていた方が、すごく楽。
						
聖
						んー……やっぱり蓉子らしくないなぁ。
						
蓉子
						疲れているのよ。私もいい年だし。
						
聖
						いやいや。それ言うと、同い年の私もそうなんだけど?
						
蓉子
						そうね。……私のことより、聖はどうなの? 
順調と言ってる割には、ちょっと元気がないように見えるけど?
						順調と言ってる割には、ちょっと元気がないように見えるけど?
聖
						ん。…いやーそんなことないよ。
						
蓉子
						そう?
						
聖
						そうそう。順調で寝る間もないくらいだから。
そうは言いつつ、盛大なため息が漏れる)
						そうは言いつつ、盛大なため息が漏れる)
蓉子
						……。
						
聖
						ただ……さ。
						
蓉子
						ただ?
						
聖
						うん……(お茶に口をつける)
						
蓉子
						……。
						
聖
						仕事は順調にまわり始めたし、それが面白くてたまらないんだけど。
そーだねー……ちょこっとスキマがあるっていうか。
						そーだねー……ちょこっとスキマがあるっていうか。
蓉子
						隙間?
						
聖
						(苦笑しつつ)うん、そう……ココ(自分の胸を指さす)に、ね。
なんとなくそんな感じがするの。
						なんとなくそんな感じがするの。
蓉子
						あら。誰かさんは、ちょっと前まですごくおモテになっていなかったかしら?
						
聖
						え? ……ああ、もうそういうの、面倒くさい。
						
蓉子
						面倒……。
						
聖
						うん面倒。
そんなこと思っている自分が確かにいるのにさ、別の自分は反対のこと考えてたりするから、不思議だよ。
						そんなこと思っている自分が確かにいるのにさ、別の自分は反対のこと考えてたりするから、不思議だよ。
蓉子
						どんなこと考えているのかしら? もうひとりの貴女は(笑う)
						
聖
						聞きたい?
						
蓉子
						貴女が話したければ。
						
聖
						ちぇー(笑う)
						
蓉子
						……いいえ、ぜひとも聞きたいわね(微笑)
						
聖
						……。
40数年生きてきてさ、こんなこと思ったのは初めてなんだけどねぇ……
						40数年生きてきてさ、こんなこと思ったのは初めてなんだけどねぇ……
蓉子
						(無言で先を促す)
						
聖
						『彼女が欲しいなぁ』……って。
馬鹿みたいでしょう?
						馬鹿みたいでしょう?
蓉子
						……ホント。馬鹿ね。
						
聖
						あ。やっぱり? (うへへ、と笑う)
						
蓉子
						(肩をすくめる)
						
聖
						(照れ隠しに頭をガリガリと掻く)私も年取って、弱気になってるのかしらね?
						
蓉子
						(再び肩をすくめる)……。
						
聖
						だからと言って、誰でも良いってわけじゃないんだよ?
とは言いつつ、具体的に誰がっていうことでもないんだけど。
						とは言いつつ、具体的に誰がっていうことでもないんだけど。
蓉子
						作ればいいじゃない。
						
聖
						いやいや。そんなに簡単にできるものなら、人生苦労はしないワケでー。
						
蓉子
						それはそうだけど、理想が高すぎるのではなくて?
						
聖
						理想って。
具体的にどうこうってビジョンもないのに、理想がどうのこうのって言えないよー。
						具体的にどうこうってビジョンもないのに、理想がどうのこうのって言えないよー。
蓉子
						そう?
……じゃ、もし彼女になりたいって人がいたらどうする?
						……じゃ、もし彼女になりたいって人がいたらどうする?
聖
						えー? 立候補? (盛大に苦笑)それはちょちー……。
……て、そーいや蓉子って、身持ちが堅いよねぇ。
						……て、そーいや蓉子って、身持ちが堅いよねぇ。
蓉子
						私のことはこの際どうでもいいでしょう?
						
聖
						いやー、ふとそう思っただけで。
てか、私が知らないだけで、ちゃっかり彼氏なんかいたりするんじゃない?
						てか、私が知らないだけで、ちゃっかり彼氏なんかいたりするんじゃない?
蓉子
						いないわよ。
						
聖
						あら、即答? (苦笑)
						
蓉子
						現在にも過去にもいないから。
						
聖
						え? ……(ちょっと真顔)
						
蓉子
						身持ちが堅すぎてね。
						
聖
						えーとぉ……。
						
蓉子
						……ということで、聖さん。
						
聖
						……はい?
						
蓉子
						ちょっと話は戻したいのだけど、良いかしら?
						
聖
						はい、どこまで?
						
蓉子
						立候補。
						
聖
						……なんの?
						
蓉子
						彼女。
						
聖
						誰の?
						
蓉子
						もちろん、貴女の。
						
聖
						……え? 誰が?
						
蓉子
						(真顔)私が。
						
聖
						誰の?
						
蓉子
						貴女の。
						
聖
						………(驚いて間抜け面)
						
蓉子
						……(真顔)
						
聖
						……。
						
蓉子
						………。
						
聖
						……。
						
蓉子
						(目がニヤ、と笑い)冗談よ。
						
聖
						……え……。
						
蓉子
						……でもまぁ、ちょっと考えてくれると嬉しいわね。
						
聖
						……え?……。
						
蓉子
						(立ち上がって) ……何か飲む? それともゴハンにする?
						
聖
						……あ。はい……。