へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

二次創作SS 『マリみてAnotherWorld』

キョリ。

キョリ。 本文

 近くもなく遠くもない。
 そんな差。
 
 僕たちを隔てる、ほんの数センチの……。
 夜中に目が覚める。
 毎日じゃなくて、時折。
 ぼんやりと覚醒する。
 まず認識するのは彼女の匂い。
 彼女がそばにいる。確かにそばにいる。
 そう自覚して、ほっとする。
 意識がゆっくり鮮明になる。その途中で薄く目を開く。
 暗闇の中、彼女だけがはっきりと見える。
 顔が見えたり髪だけが視界を占領していたり。
 それから彼女の重みを感じる。
 腕に足に胸に。
 彼女がそばにいる。間違いなくそばにいる。
 ――今、何時?
 私はなぜ目が覚めた?
 喉がかわいた? ――違う。
 トイレ? ――違う。
 ではなぜ?
 わからない。
 ――――。
 それは嘘。
 私を夜中に目ざめさせるもの。それは不安。
 本当に彼女は私のそばにいる?
 彼女と暮らしてるのは本当に私?
 
 彼女と一つ屋根の下で、こうして暮らせるようになったのは、私にとって何にも代え難い幸せだけど……。
 
 この幸せはいつまでつづくの?
 本当は夢ではないの?
 ベッドを抜け出てキッチンへ行く。
 浄水器から水をガラスコップに汲んで、あおるように飲む。
 水が口から食道へ。そして胃に流れ込む。
 体の中に溜まっている澱を、洗い流してくれる。
 そんな感覚。
 コップを洗う。
 次いでシンクで顔も洗う。
 キッチンのイスの背にかけられたタオル。
 それで顔を拭く。
 この時のためにここに毎晩かける。それは日課。
 再びベッドに滑り込む。
 いつもの場所。私の定位置。
 いつものように彼女の方を向いて横になる。
 暗闇の中彼女だけが妙にはっきり見える。
 私の視線の先。ほんの数センチ。
 私たちを隔てるわずかな空間。
 自分の吐く息で、あるいはお互いの呼吸で、私たちの間にある空間がほんのりと温まる。
 そんな気がするだけかも知れない。
 あるいは本当に温まっているのかも。
 彼女がこちらを向いているならば、その唇に自分のそれをそっと重ねてみようか。
 そうしたら彼女は起きるだろうか。
 起きてひとこと「なあに?」と微笑んでくれるだろうか。
 こんなに近くにいるのに、このわずか数センチの隔たりがもどかしい。
 でもきっと、この数センチが、それを示しているのだ。
 私たちが個々であることを。
 お互いに自分の足で立つことを。
 お互いに自分の足で地面を掴み、立っているからこそ、お互いに手を繋いで歩いていけるのだと。
 私はいつも確認する。
 この数センチの差。
 近くもなく遠くもない、ほんの数センチメートルの。
 そうだね。
 ……とひとり暗闇で頷いて。
 その頃には再び彼女の匂いに包まれていて。
 彼女と一つに解け合ったような気分になって。
 安心する。
 眠りに落ちる。
 おやすみ、世界。
 おやすみ、大好きな君。
作品名
キョリ。
分類
マリみてAnotherWorld
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