へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

ヒナセと隼鷹 こころ まにまに

ヒナセと隼鷹 こころ まにまに 本文

めずらしいこともあるもんだと思ったら…。
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てーとくー。
……ちょっといいすか?
ん? なに?
えーっと……いやーあ。
……ふむ。
鳳翔さん、デン。ちょっと外していただけますか?
了解いたしました。
はいなのです。
………。
………。
……で、なに? 隼鷹。
君が改まって私に話をしにくるなんて、めずらしいね。
いつも一線引いて、必要以上には近づいてこないのに。
……てーとくの、そういう歯に衣着せないところ、アタシゃー嫌いじゃないですっけどね。
………。
ひひひ。
………。
………。
悪いけど、お茶、淹れてくれないかな。
……へ?
めずらしくさ、鳳翔さんがお茶淹れずに出て行っちゃったからね。
ああ……へいへい。
じゃ、淹れますかねぇ。鳳翔さんみたく美味しかぁねーっすよ?
期待していないからいいよ。
あ。ひどい。
お茶淹れてる間に、喋りたくなるでしょ。だから。
……へへ……お見通しか。
(肩をすくめる)
(茶棚のところへ行き)……えーっと……お茶っ葉、なんでもいいですかー?
分かるようだったら、玄米茶にして。それなら誰が淹れても、よほどじゃない限り不味くならないから。
……ち……へぇい。
お茶っ葉は心持ち少なめにね。失敗するときって、たいがいお茶っ葉入れすぎてんだよね、みんな。……もちろん私もね。
……なるほど。
(ヒナセに)りょーかいしましたー。
湯飲みは適当でいいよ。
いやいやーてーとくのお湯飲みくらい知ってまさぁね。
そ。
千鳥のついた緑のヤツでしょ。
うん。それ。
……よくできました。
聞こえてますよー。
艦娘だからね。
……聞こえるように言ったんかい……。
んにゃ。そういうわけでもない。
……ち。
(ふ、とかすかに鼻で笑い、読んでいた書類をまとめると、トレーの上にそろえて置く。
胸ポケットから小さな手帳を取り出してぱらぱらとページをめくる)
お待たせしましたーぁ。不味くても文句言わないでくださいよ。
ありがとう(出された湯飲みを取って)君もどうぞ? (茶を飲む)
あ。はいありがとうございます(一礼して飲み始める)
……で、どっちの話? カワチ? それとも武蔵?
ぶっ……。
ふむ。
予想は合ってたか。
……よくお分かりで。
まぁね。
君がわざわざ来て、切り出しにくい話の関係者って、カワチか武蔵かしか思いつかない。
あ、そすか。
……で、どっちなの?
うーん……どっちでもないと言えばどっちでもないし、どっちもといえばどっちも……って感じですかねぇ。
……んー?
ヒナセ提督に訊く話でもない気もするし、じゃ、ほかの誰かに訊いて分かるーって話でもなさそうだし。
んー……煮え切らないなぁ。
そんなに話しづらいなら単語を並べるだけでもいいよ。
あー……いえいえ。
そーねぇ……なんつーかですねぇ。まぁ、その……武蔵のことなんすけど。
ふむ。武蔵ね……あ、メモ取っていい?
あーはいはいお好きにどうぞ。
(鉛筆を取り上げる)いつでもどうぞ。
いやーねぇ、武蔵がどうこうって話じゃなくて、アタシ自身のことなんすけどねぇ……。
ん? 君自身?
ええ。なんつーかその……武蔵……あーもう面倒だなー。ちびでいいや。
ちびって、アタシから見て子供なんすよ。
……(話の真意がよく掴めなかった)……そりゃ君は、私とほぼ同い年でしょ。生まれてやっと二年になろうかっていう武蔵なんて、君から見れば赤子同然でしょ?
あ、いやそうじゃなくて。アタシはあいつの養育艦じゃないですか。つまりは育ての親みたいなモンでしょ。だから、アイツはアタシの子供なんすよ。
ああ、そういうことか。……で?
そんなちびとね、ああいうことになってからこっち、なんつーかさー、こう……このあたりにね……モヤモヤ~~っとさ。
「もやもや~~っとなんか」?
そそ。こうね……モヤモヤ~~~って。
一緒にいるときにはあんまし感じないってぇか……いや、モヤモヤ~~ってしてるときもあるんですけど。どっちかってぇと、アイツがいない時ちゅーか……そーねぇ……遠征に出してる時ちゅーかですね……。
ああ、基地にいない時ね。心配性だね。
でも武蔵だけ出す時ってごくごく近距離遠征の護衛で出すだけだから、いないと言っても長くて丸一日……実質二日間くらいだし、出てくる敵もそんなに強くないじゃない。それでも?
(情けない顔で肯き)
こういうの、初めてで、なーんか気持ち悪いっていうか……。
この「なんか」の正体がわかんないんすよ。
……それは……武蔵のことが『好き』なのでは?
んんんー~~~~………そーゆーのともちょーっと違う気がするんですよねぇ。
好きっちゅーのはさ、妙高型の次女と三女みたいになるんじゃないんすか?
……ははぁ……なるほど。
わかりますんで?
や。
君が相談相手を完璧に間違っていることだけが分かった。
……あ~~~~……やっぱり……。
うん。ごめん。
その手の話、私はゼンッゼン分かんない。
……ていうかさ、なんでカワチに相談しないの?
こいうのは、彼女の方が断然詳しいよ。たぶん。
……いやーぁねぇ……話をすれば、きっと親身になってくれそうですし、それなりに有益な話もしてくれそうですけど、なーんかねぇ……こういう方面では特に胡散臭い感じがするんすよねぇ、ウチの旦那。
特にどころか、存在自体がかなり胡散臭い人だけどねぇレーコさんは。
……というか、面白いね。
はい?
君、『ウチの旦那』って言うよね。カワチのこと。
そりゃー、ご主人ですし?
……厳密には違いますけども。
そうね。君はあくまでもこの基地の専任艦だ。
カワチ提督に預けた人はどなたでしたっけ?
私だね。
仮とはいえ仕えている提督ですからね。
誰がその言葉を教えたの?
さてねぇ。忘れちまいましたよ。
ずーっと男の提督にばーっか仕えてたし。だからじゃないすか?
そういや、江戸っ子家系だっていう提督がいたような……。
ふむ。そういうものかな。
それとも長く稼働しているからか。なんにせよ、面白い(メモを取る)
(肩をすくめる)
モヤモヤの元はたぶん『好き』って感情と「でもアイツは自分の子供みたいなものだし」ってのがせめぎ合ってるんだと思うな。
それも面白い。
面白がらないでくれます?
いやぁ。
君らの感情や行動は、元はプログラムだ。知ってると思うしさんざん言われて来たろうから耳にタコができてるかもしれないけどね。はっきり言って、君らは歴《れっき》とした工業製品で、建造直後の状態は、同じ名前の艦《ふね》なら寸分の違いも無い状態なんだ。
だけどね、長く稼動している艦……それも、数多くの提督を渡り歩いている君のような艦は、初期化を何度も受けているにも関わらず、人間に近い感情を持ったり行動をしたりするようになる。
記録としては知っていたけど、実際自分の目の前でこうして実例を見ることになるとはね。
やだなーこの人ってば。ゼンッゼン悪びれずにイヤなことガッツリ言いますよねぇ。
うん。そういう物言いとかもね、他の子はあまりしないでしょ(にっこり笑う)
~~~————………(呆れて物が言えない)
鳳翔さんもそこそこ長く稼動している艦ってことになるんだけど、提督があまり変わらなかったせいか、君ほどは感情豊かではないんだよね。沈んでいた期間が長かったせいもあるかもだけどね。
てーとくはさぁー、軍人辞めて学者かなんかになったほうがいいんじゃないすか?
そもそも——
軍人にはほぼ見えない……でしょ。
知ってる。それこそ学生時代……飛行学生の頃からずーっと言われ続けている言葉だもん。
……そりゃ失礼。
そういや君、私と初めて会った時、主計科の士官って間違ったよね。
……まだ憶えてんのかよ……。
あれ、そこそこ傷ついたんだもん(やや憮然と言う)
すんませんでした。
いえいえどう致しまして。
(二人で同時にお茶をずずっと飲む)
……でだ。 君はこの先どうしたいの?
……どう……って。 いきなり話を戻しましたね?
そろそろ締めないと、おやつの時間が近いしね。
あ…そ。
(腕を組みつつ首を傾げて)……子供みたいなモノといっても、実際の子供じゃないし、君らは厳密に生物ってわけでもないからさ。
生物である人間でさえも好きって感情は、行きすぎると親とか兄弟とかって枠を簡単に超えちゃうって話だしね。
そなんすか?
うん。
どこまでのレベルかまでは分かんないけど、姫提督……アサカ次長なんて、実のお兄さんが好きすぎて、未だに他の誰かと結婚する気配もないからね。
……は? ……って、それ……
うん。私の死んだ旦那さんね。
ヒナセ中佐。
デスヨネ。
彼女の立場だと、結婚しないわけにもいかないんじゃないかなぁって思うんだけど、こればかりはねぇ。
そのうち、どこか遠縁あたりから養子でももらうかもね。浅香家を絶やすわけにはいかないだろうからさ。
はぁ。
あんな、パーフェクト人間っぽいヒロミさんですら「好き」って感情にはウソ付けないんだからさ、君らだってそのあたり、思ったままでいいんじゃないかなぁ……とは思う。
ヒナセ提督はどうなんす?
私? さっきも言ったけど、私はそういうの、ホンッとにゼンッゼン分かんないの。
ヒナセ教官が私を好いていてくれたのは分かってるんだけど、はじめは正直、迷惑なだけだったからさ。
はぁ…。
だってさー、士官候補生なんてクッソ忙しいじゃない。私みたいに心《しん》からの志願じゃなくて、もう成り行き上しょうがなく軍に残るために進まざるを得なかった人間にはねぇ、付いて行くだけで他に気を逸らす余裕なんて、これっぽっちもなかったよ。
……同期のカワチ提督に聞いた話じゃ、首位争いしてたって話じゃないすか。
飛行学はどうやっても勝てなかったって、言ってましたよー。
(肩をすくめる)得意分野でぶっ飛ばして少しでも首位に近づいておかないとさ、後ろはどんどん追い上げてくるからね。
なるほど。
ひとつお訊きしますけど、なんでそんな、好きでもなかった人と結婚したんです?
……差し伸べられた手に縋っちゃったんだな。
何もかもがどん底だった時、手を差し伸べてくれたのが彼だったの。
そして、私が言った無理難題を実行してくれたから。
引っ込みが付かなくなっちゃったんだなー。
………。
私はねぇ、心底誰かを好きになったことがないんだ。……たぶん。
たぶん?(よく分からない、という顔)
うん。そんな感情を経験しないまま、こんな歳になってしまった。
だから、君たち艦娘が誰か……同じ艦娘だろうが、人間だろうが……『他者を好きになる』ということに、とても興味がある。
だから今、メモ取ってるワケですが(ちょっとうんざりした顔で)
うん、そう(メモを取りつつニコ、と笑う)
うーん……。
ゴメンねぇ、ホントにゼンゼン役に立たなくて。
いえいえー。逆に為《タメ》になりましたや。
そ?
ええ。こういうことは難しく考えちゃダメなんだなぁ、ってくらいのことですけどね。
どうせ明日をも知れない身なんだし、自分の感情に正直で良いんだなって。幸い、アイツもアタシのこと好いてくれてるしね。
………。
なんつーかねぇ……アタシゃ、アイツとのことになると、ちょーっと自分が見えなくなる部分がありますねぇ。
もーっとフラットでラフに考えて良いんだな……ってこと、今思いました。
それは良かった。
私は面白いサンプルが採れて満足です。
ホントに、長く稼動している君らはどんどんヒトに近くなる。
あまり良い傾向じゃない?
さてね。……軍としてはそうかもしれない。
でも、私個人としては、良い傾向だとは言わないけど、「悪いこと」ってまでは思わない、てところだね。
(腕時計を見て)タイムリミット。おやつの時間だ(メモ帳を閉じてデスクから立ち上がる)
……ねぇ提督。
提督は、何を見ているんです?
ん?
未来に。
(微かに笑い)……さて、何だろうね。
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