へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

『艦隊これくしょん―艦これ―』二次創作SS

着任。―風向き、よし!― 番外編 01

さてはなるや、新天地?

「……んにゃ、先に通知来てたし」
 基地司令官室で私たちを迎えたヒナセ提督は、こともなげにそう言った。
「………」
「………」
 私と大淀は口をぱくぱくさせるばかり。その様子を気の毒そうに、苦笑をかみつぶしながら副司令のカワチ提督が見ている。
「あの……しかし、正式辞令は、私がお持ちしたんですが……?」
 大淀が、手に持ったファイルバインダーから辞令書を出して差し出すと、カワチ提督がそれを受け取って、ヒナセ提督に渡した。ヒナセ提督はいつも鼻に乗せてる小さなメガネを外して、書類を読むと「うん」とうなずいて、にこっと笑った。
「はい、正式に確認しました。……『明石』そして『大淀』 当基地への着任を歓迎します」
 ヒナセ提督の右腕がスッと動いて海軍式敬礼の形を取る。それにあわせてカワチ提督も敬礼をした。それを見た私たちは敬礼をしたけど、出遅れた上にあたふたとしてしまったので、締まらないことこの上なかった。
「は……はい! 誠心誠意勤めますので、こちらこそ宜しくお願い致します!」
 大淀が言った。私よりほんの少しだけど年下なのに、とっさでもピシッとやれちゃうんだもんなぁ、すごいよ、大淀。
「明石、右に同じくです」
 あ……締まらない。締まらない……。言ってしまってから後悔したけど、もう引っ込められない。あちゃー……。
 やらかしたーと自己嫌悪に落ちたとき、目の前の提督二人から「ぷ」と同時に声が漏れた。どうやら気持ちが顔にも盛大に出てしまってたみたい。
「ま、明石は気を楽にね。それより持ってきた資材のリストをみせて欲しいんだけど?」
 ヒナセ提督が苦笑しながら言った。
「あ……はいはい。ええと、書類は……」
 しまった、艦に置いてきたかも。
「こちらです」
 大淀が自分のバインダーから、私が持ってくるべきリストを取り出した。
 あの、大淀。あなたのバインダーは亜空間にでもつながっているんですか? それ、私の個室にあるデスクの引き出しに入れてたはずですよねぇ??
 大淀のバインダーから出てきた私のリストは、辞令書と同じルートをたどって基地司令のもとへと運ばれた。ヒナセ提督は「ああ、ありがとう」とそれを受け取ってデスクの上に置く。
「あ……あの、ヒナセ提督」
 とっさに声が出る。でも何が言いたいのか分からない。
「はい、なぁに?」
 デスクに手をついているヒナセ提督の視線は、リストに羅列された字を追っていてこちらを見ない。ええと……私は何を言おうとしていたんだっけ?
「あ……あの、えっと……その……」
「……ん?」
 ヒナセ提督の視線が私を見る。いつもなんでもハキハキ言っちゃう私がへどもどしているのが気になったみたい。
「えーっと……そう! 事前に、事前に……先に通知が来てたっておっしゃってましたけど……」
「けど?」
 ヒナセ提督はきょとんとしている。どうでもいいけど、この人眼鏡かけてないと、さらに若く見えるなぁ。
「さっき、辞令書をご覧になったとき、初めて見たわけじゃなさそうだったので……その……あの……」
「………」
「………」
 提督たちは、お互いに視線を交わしあう。
「……ああ」
 なにか得心がいったようで、ヒナセ提督は「ポン」と左の拳で右の手のひらを打った。
「あのね……」
 ヒナセ提督が眼鏡をかけ直し、デスクから離れながら、おいでおいでと手招きした。それにつられて私はヒナセ提督の行くほうへ進む。大淀も後ろからついてきた。
「今ね、これがあるんだよ」
「……これは……?」
「見たことないかな?」
 提督がニコリと笑って指し示す先には、やや大型の四角い機械が置いてあった。機械の側面には電話の受話器みたいなものがくっついている。
「ファックス……なんだけどね」
「……は?」
「……え?」
「ファックスー!?」
「あ、やっぱファックスって知らなかった?」
 いいえいいえ、ファックスは知ってます。知ってますよー。でも……でも……こんな形でしたっけ? もっと小さいものじゃなかったですかね?? 確かにちょっとコピー機のような雰囲気ですけども、ええとなんだっけ……ご家庭用コピー機ってやつ? そして元はもっと白っぽかったのかな? プラスチックっぽいボディーは経年劣化しているのか、かなり黄ばんでいるし、……いやそんなことは今はどうでもよくって……。
 混乱でグルグルしていると、いつの間にか近くに来ていたカワチ提督がこう言った。
「ヒナセが、発掘してきてね」
「発掘……ですか?」
「そ。よくもまぁ、動いたことだね」
 カワチ提督は喉の奥で「くふふ」と笑うとその場を離れていく。どうやら助け船を出してくれたっぽい。
「まぁ、そんなワケで。電話回線は引いてあるしファックスは古いけど動いたしで、ちょっと前から導入してたってワケ。もちろん、姫提督の了承済みだよん」
 “姫提督”とは彼女たちの上司で私の直接の主人であるアサカ提督のことだ。この愛称については、また話すときもあるかと思う。……いやもう、誰かが解説したあとかも。
「野ざらし雨ざらしになってなかったとは言え、運が良かったねぇ」
 とカワチ提督。
「まったくまったく」
 とヒナセ提督。
 提督たちはすでに所定の位置に戻って仕事を再開している。やだもう、この人たち。
 とほほ、と脱力していると、後ろから大淀の笑い声が微かに聞こえてきた。振り向いてみたら、とても嬉しいって顔をしてる。
(よかったですねぇ、明石)
 大淀は声を出さずに唇だけでそう言った。
 ……なんのことですか? なにがよかったんですか?
(面白そうな方たちで)
 ……そうですか? 私はアサカ提督が三倍になったかって錯覚して、どっと疲れたんですけどこの先が思いやられるんですけど。
「明石」
「は、はいぃっっ!!」
 ヒナセ提督から呼ばれて文字通り飛び上がってしまった。見るとまた「おいでおいで」をしている。書類をじっと見つめたままで。
「ここ、ちょっと不明な点があるんだけど、間違ってない? 確認してくれますか?」
「は……はい!」
「あ、カワチ。大淀を先に艦娘寮に案内して、寮母さんと寮長に引き合わせてくれる? 明石はあとで私が連れて行くから」
「ふむ。了解した。……さ、大淀さん、どうぞこちらに」
「あ……はい……」
 消え入るような大淀の声に振り向いてみたら、カワチ提督が大淀に左腕を差し出して、エスコートしようとしているのが見えた。
 ちょっと待って大淀、なぜアナタは顔をそんなに赤らめているんですかっっ!? ああ、そしてカワチ提督、アナタはどうしてそんなに艦娘をエスコートする姿が自然で似合いすぎなんですかっ! その姿を見ちゃうと大昔のゴシップが眉唾物じゃなくて真実に思えてくるのでヤメテクダサイ頼むから。
 司令官室の扉の向こうに消えた二人を凝視してたら、頭を捕まれてぐいっと回転させられた。
「はいーこっちに集中ー」
「でもっ……でも……」
「カワチのあれは、スキンシップとデモンストレーションみたいなものだから、気にしなくて大丈夫だよ。とっととこっち、済ませちゃいましょ」
 集中すればすぐに終わるでしょ、とヒナセ提督はつぶやいて、リストの不明点をいくつか上げ始めた。その変わりようがあまりにも早くて、私もつられて仕事モードに切り替わざるを得ない。
 わかった。わかりました。とっとと仕事を終わらせちゃいましょ。そしてひと仕事終わったら、ほかの艦娘たちにあらためて紹介してもらって、期間限定だけれど、この基地の一員になるんだから。

 こうして前途多難だけど楽しそうな、着任第一日目が始まった。
 ……というか、着任して休むヒマもなく仕事させるなんて、ホントにヒナセ提督は人使い……いや艦娘使いが荒い。
 私は内心ため息をつきながら、艦娘寮で大淀と同室にならないかなーって思いながら、仕事を「とっとと終わらせる」ためにリストに集中することにした。

 ……さて艦娘寮の部屋割りだが、私の自分勝手な希望は、ものの見事に外れていた。
 ま、そんなもんですよね。

××××年 ×月 ××日作成

定期報告書

【報告】
軽巡洋艦 『大淀』
工作艦 『明石』

上二名、
鹿屋基地 第三〇六分基地(通称:日生基地)、着任

【補足】
工作艦『明石』に於いては任務完了をもって、
第三部次長 浅香広海中将に返却の旨、了解せり。

以上により、当基地の所属艦娘……十七名

××××年 ×月 ××日
鹿屋基地第三部 第三六課長
三〇六分基地司令
海軍少将 日生日向子(印)
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